第10話 帰宅したあとに



 さなを家へと送り、俺は一人自宅への道を歩く。

 ああいうのを、豪邸って言うのだろうか。いつか家に上がってみたいものだ。

 さすがに、初日から上がらせてもらうのも非常識だしな。


 その後は、特になにが起きるわけでもなく……家へと、帰宅する。

 すでに両親が、帰っていたのだが……


「真尾、お前、入学前に女の子に告ったって本当か!?」


「私、恥ずかしくて仕方なかったわよ!?」


 両親が、驚いた様子で問い詰めてきた。

 どうやら、俺がさなに告白したことは、両親の耳にも届いていたらしい。


 とはいえ、両親が俺の親だ、と周りにバレたわけではない。

 ただ、両親から見れば、入学前から公開告白した男は自分たちの息子、とわかっていたわけで……


 まあ、恥ずかしかったわけだ。


「いや、つい……」


「ついでやらないぞそんなことは!?」


 別に、両親は本気で怒っているわけではないのだろうが……それはもう、ものすごい勢いだった。

 やっぱりあれはやりすぎだったらしい。


 その後、告白した女の子とどうなったかを聞かれた。


「とりあえず、家まで送りはしたけど……」


「いきなり!? はぁー、昔から思ってたが、お前のその行動力はどこから出てくるんだ」


 行動力、か……どこからと聞かれれば、それは魔王時代からだろうな。

 行動力さえもなければ、荒々しい魔族をまとめ上げることなどできなかったからな。


 前世と呼べる記憶。それが、今もあってよかった。

 自分が転生した理由などわからなかったが……こうして、持っていた知識を活かすことができるのはありがたい。


 転生魔術とは、かなりの大魔術だ。

 それを自分で使ったわけではない。だとしたら、何者かの意図が働いているのか。


「…………」


 と、自室のベッドの上で、ぼんやりと考える。

 こうしたことは、今までもたまに考えることはあった。

 考えてもどうしようもないし、たとえ原因がわかったところで、だからどうしようというわけでもない。


 なってしまったものは、なってしまったのだ。

 このまま、時の流れに身を任せればいい。


 それよりも、だ。今は……


「さな……」


 目を閉じれば、浮かんでくる一人の女子の顔。

 如月 さな……これまで出会ったどの女子よりも、俺が魅力を感じた相手。


 この体に転生したばかりの頃は、まだ人間相手に気持ちが動くことはなかった。

 それはそうだ。前世で魔族だった俺は、人間の異性を好くなど、一定以上の感情を抱くことはなかった。

 それは、種族間ゆえの感性の違い。


 しかし、この体は成長することにより……俺の感性は、だんだん人間に近づいていった。

 中学に上がる頃には、もうすっかり人間と同じ感性になっていたのだと思う。


 そんな俺が、こうも心動かされたのは……彼女が、初めてだった。


「……連絡先でも、交換しておくんだったか」


 科学の発展したこの世界では、携帯電話というものが普及している。

 手のひらサイズの機械で、いつでも相手と連絡が取れるのだ。


 前世だと、離れていても魔族同士なら、頭の中で会話ができたが……

 人間にそのような芸当は、できなかった。


 向こうにはなかった、科学という力で、便利なものが増えていった。


「まあ、毎日会えるのだからな……」


 連絡先の交換……それをしなかったことを後悔するも、どうせ毎日会えるのだからと、切り替える。

 まあ、会っていきなり連絡先を聞くというのも、驚くかもしれんしな。


 そのまま俺は、着替えることもせずに眠ってしまう。

 疲れていたのだろうか……人間の体というやつは、この程度でも疲れを溜めてしまうのだな。


 その後、母親に強制的に目を覚まされた。制服のまま寝るとしわになるから、せめて着替えろとのことだ。


「……」


 とはいえ、一度起きてしまったので……俺は、散歩に出かける。

 入学式で早く学校が終わったからといって、他にやることもないしな……


「……桜も、散り始めてるか」


 学校の近くでは満開だった桜も、ウチの近くでは散り始めている。

 なんとなく、寂しさを感じる。


 ともあれ……明日から、新たな生活が始まるのだ。

 気を、引き締めなければ。

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