転生魔王は友達を作る
第2話 何度砕けても
「おい、あいつだろ?」
「あぁ、入学式の前に公開告白したやべー奴だよ」
「でも、入試トップで、結構イケメンだよ?」
「頭良くて顔が良くても、中身があれじゃあねぇ」
……おかしい。なぜ俺は、入学初日から人々から距離を置かれている? しかも、今朝のことが話題になっている。
あれで隠れて話しているつもりか。それとも、聞こえるように話しているのか。
「……早まったか」
あの後よく思い出せば、父は確か徐々に距離を縮めていくのが理想的だと言っていた。
ような気がする。
俺は、人間の女をかわいいと思ったことはあれど恋をしたことはない。
きっと、感性が人間に近づいているのだろうが……まあ、それはいい。
正真正銘の、初告白。
その結果は……
『は、はわ……ご、ごめんなさいぃいいいい!』
……見事に逃げられ、いわゆる玉砕をしてしまったわけだ。
とはいえ、天はまだ俺を見放してはいない。
……そもそも、なぜこんなことになってしまったのか。
話は、登校前……家を出る前にまで、さかのぼる。
——————————
「よし……今日から、俺も高校生か」
……人間の体は、不便で仕方がない。
だが、この人間の世はなかなかに、面白い。
良きものが、たくさんある。テレビ、それにマンガ……そういった娯楽は、この世界の方が充実している。
魔王時代は、戯れに部下を焼き殺したりしていたっけ。
「おぉ、よく似合っているじゃないか」
リビングには、両親の姿。今日は高校の入学式なため、今日だけは両親も学校に行くらしい。
とはいえ、一緒に登校する必要もない。俺は、一足先に行くことにする。
「着いたら、連絡するからねー」
「はいよー」
朝食のパンを頬張り、家を出る。空は快晴、これを入学日和だとでもいうのだろうか。
徒歩でニ十分といったところか……近場の高校を選んだとはいえ、魔術が使えれば、こんな距離一瞬なのに。
そういえば、この世界には正確には、魔術は存在しないわけではない。概念としては、存在している。
だが、人間は体内に魔力を持っていない。なので、使うことが出来ないのだ。
俺は転生者だからか、体内に魔力を残している。つまり魔術も使える。
昔、試しに炎を出してみたら、家でボヤ騒ぎになってしまったことがある。
以降、魔術をおいそれと使うのはやめようと決めた。体内の魔力にも限界があるからな。
……それにしても。
「あんまり、気乗りしねえなぁ」
これまでも、小学校に中学校と、似たような施設……学校か。には通っていた。
学校になど行ったことがない俺にとって、始めのうちは目新しいものばかりだったが。
正直、授業内容はつまらない、人間関係はめんどくさく、決まり事も多く息が詰まりそうだった。
学校には行ってなかったが、魔王であった俺は最強で天才だったからな。そんな俺にとって、この世界の常識さえ覚えてしまえば、学校で習う程度の知識などすぐに覚えられる。
人間というのは、徒党を組むのが好きな生き物だ。友達というのを作るものだと学んだ。
なので、俺は友達を作ろうとしたのだが……
『余……じゃなくて。俺様、いや俺が友達とやらになってやっても、いいぞ?』
小学生、中学生と一貫して友達を作ろうとしていたのに、なぜだか出来なかった。不思議だ。
逆に、バカにしてるのかと絡んできた奴もいたな。返り討ちにしてやったが。
そんなだから、俺はほぼほぼ学生生活を一人で生きてきたわけだ。
まあ、一人でもあんまり不便はなかったけど。
とはいえ、そんなではさすがにダメなんじゃないか、と俺も思ったわけだ。
そんな思い出があるから、今回こそ俺は友達を作ろうと意気込む。
「以前のような言い方ではどうにもうまくいかないらしいからな……もう少し下手に出るか……?」
うーむ、なかなか難しい。
こんなことなら、両親に友達作りのコツでも聞いておくんだったか。
「……お、ここか」
ふと、気がつけば巨大な施設……いや学校が見えた。
ふむ、あの門をくぐれば、新しい生活が始まるわけだな。
新たなる門出を祝うように、桜も咲いておるわ。
俺は、一歩を踏み出そうとして……
——————————
「彼女に出会ったわけだ」
一通りの出来事を回想しつつ、俺は現実へと思考を戻す。
彼女には逃げられてしまった。だが、まだ天は俺を見放しては、いない。
なぜなら……
「……」
視線を動かせば、そこには彼女がいるからだ。
彼女も俺と同じく新入生。しかも、同じクラス……これは、俺にまだ諦めるなと言っているのだ、天が。
魔王が天だなんだを信じるとはおかしな話だが……いいのだ。俺は魔王だが、もうこの世界では魔王ではないのだから。
父も言っていた。一度や二度失敗したくらいでくよくよするな、男は砕けてなんぼだと。砕けるつもりなどないが。
ならば俺も、諦めまい。元々俺は諦めは悪いんだ。でないと魔王なんてやれないからな。
「でも、驚いたよな」
「うん、まさか如月さんが……」
「そんなにすごい人なのか?」
「同じ学校だった人はよく知ってるわよ。如月 さな……成績は常にトップ、今回の入試挨拶だって確実だって言われてたんだから」
俺が転生者だからか、それともそれとは関係なしに健康体だからか……この体は、耳が良い。
なので、周りの会話も聞こえるわけだが……
ふむ、彼女、如月 さなというのか。彼女の顔ばかり追っていて、名前を気にしていなかった。
魔王時代も、部下の名前なんて覚えてもなかったしな……名前覚えるの、苦手だ。
それにしても、せーらーふく……とかいうやつ。よく似合っている。
まるでさなのために作られたかのような制服だ。
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