【SS】なーんだ?

モルフェ

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執事「なーんだ?」


少女「……わからないわ」


執事「降参ですか」


少女「……教えて」


執事「答えは、リンゴです」


少女「リンゴ」


執事「そう、リンゴでございます」


少女「リンゴね」




―――――


執事「眼鏡」


少女「眼鏡……あなたが時々かけているそれね」


執事「胡瓜」


少女「……河童の好きなあれね」


執事「弓」


少女「……びゅーん、のやつね」


執事「共通点は、なーんだ?」


少女「……」




執事「降参ですか」


少女「ちょっと待って」


執事「では少しだけ」


少女「共通点、共通点……」


少女「文字に関するもの?」


執事「いいえ」


少女「英語に直すとか」


執事「その必要はありません」


少女「……」




執事「降参ですか」


少女「……うん」


執事「答えは、つるです」


少女「……鶴」


執事「たぶんお嬢様が想像しているものとは違います」


執事「鳥の方を想像しておられるでしょう」


少女「クエーッって言う方ね」


執事「言いません」


少女「言う方じゃないの」


執事「鶴も言いません」




少女「鶴ってどうやって鳴くの」


執事「さあ……聞いたことはありませんねえ」


執事「しかし『鶴の一声』と言いますから、威嚇音みたいなものでしょうか」


少女「ドルルン、ドルルン」


執事「おそらく違います」


少女「パラリラ、パラリラ~」


執事「そちらの方が近いかと」


少女「またひとつ賢くなったわ」




少女「で、つるってなに」


執事「眼鏡の、ここです」キュッ


少女「ふうん」


執事「胡瓜にもつるが」


少女「ああ、そうね」


執事「弓にもつるがあります」


少女「……」


少女「次!!」


執事「はい」




少女「もっと簡単なの!!」


執事「では」


執事「ガラスのコップ、ありますよね」


少女「キラキラした透明のやつね」


執事「そうです」


執事「ガラスのコップに入れることはできるのに、取り出せないもの、なーんだ?」


少女「……」


執事「ゆっくり考えてください」




少女「……氷」


執事「氷、取り出せます」


少女「接着剤!!」


執事「接着剤を溶かす薬もありますよ」


少女「……」シュン


執事「降参ですね?」


少女「……」




執事「答えは、ヒビです」


少女「…?」


少女「!!」パァァァ


執事「ガラスに入ったヒビは、決して取り出せません」


少女「そうね!!」


執事「人と人との間に入ったヒビも、取り出せないことがあります」


少女「?」


執事「お嬢様には関係ない話でしたね」


少女「難しい話はよくわからないわ」




執事「もうこんな時間でしたか」


少女「時間なんて関係ないじゃない」


執事「そういうわけにはいきませんので」


少女「もう、けちんぼ」


執事「なんとでもおっしゃってください」


執事「夕食のご用意ができましたら、お呼びします」


少女「うん」


執事「本でもお読みになって、お待ちを」




少女「本なんか、つまんない」


少女「謎謎をしてくれるときが一番楽しいのに」


少女「ちょっと散歩でもしようかしら」


少女「怒られるかしら」


少女「……」


少女「ちょっとだけ、ちょっとだけね」


コソコソ




執事「お嬢様、夕食の準備ができました」


少女「ね、これ、なーんだ?」ワクワク


執事「これは……」


執事「お嬢様、また外に出ましたね」


少女「まだそんなに暗くないじゃない」


執事「いけないものはいけません」


少女「もー」


執事「ちなみにそれは、カブトムシですね。図鑑で見たことがあるでしょう?」


少女「違うわ」


執事「え?」




執事「でもそれは……」


少女「これは私があなたより先に見つけたの!! だから名前は私がつけるの!!」


執事「はあ……では名前はなんと」


少女「『カブトキング』よ!!」


執事「はあ……カブトキング、ですか」


少女「そうよ、覚えておきなさい♪」


執事「……」


執事「お嬢様、ときにこれは、なーんだ?」


少女「リンゴね」


執事「違います。今日からこれは『悪魔の果実』という名前にします」




少女「……」


執事「これは、なーんだ?」クイッ


少女「……眼鏡」


執事「違います。今日からこれは『真実を見通す目』という名前にします」


少女「……」


執事「では、これは」


少女「ごめんなさい」


執事「今なんと」


少女「ごめんなさい」


執事「わかったら、もう勝手に外に出てはいけませんよ、いいですね?」


少女「はあい」




執事「では、夕食にしましょう。冷めてしまいます」


少女「今日はなあに」


執事「パンとスクランブルエッグ、ビーフシチューです」


少女「あら、今日はビーフもあるのね♪」


執事「そろそろ少なくなってきたんですけれどね」


少女「ハナコが?」


執事「ええ、ハナコが」


少女「そう……でもずいぶん持ってくれたわね」


執事「次は順番的にツヨシですね」


少女「そうね」




執事「さあ、いただきましょう」


少女「はい、いただきます」


カチャカチャ


執事「いかがですか」


少女「うん、おいしいわ」


執事「垂れております」


フキフキ


少女「んん」




少女「ねえ、食べながら謎謎して?」


執事「ええ」


少女「♪」ワクワク


執事「食事中にお喋りをしようと持ちかけてくる下品な女性は、なーんだ?」


少女「……」


執事「……」


少女「けちんぼ」


執事「外れでございます」




少女「食事が終わったら、寝るまでずっと謎謎だからね」


執事「ええ」


少女「絶対ね!!」


執事「ええ」


少女「もぐもぐ」


執事「急いで食べると体に悪いです」


少女「もいもい」


執事「口に含んだら喋らない」


少女「……」


執事「噛んだら早く呑み込んでください」




カチャン


少女「さ、やりましょーう」


執事「片付けがまだでございます」


少女「ああ、もう」


執事「お部屋でお待ちください」


少女「もう」


執事「すぐに向かいますので」


少女「首を洗って待ってるからねー」


執事「洗わなくていいです。長くしてお待ちください」


少女「……ロープとかで引っ張ればいい?」


執事「あ、すみません。今のは忘れてください、完全に」




ガチャ


少女「遅ーい」


執事「すみません、コーヒーの準備と、お祈りに手間取りまして」


少女「もう」


執事「では」


少女「うん」


執事「軍隊の少尉と大尉が軍用ジープで走っていました」


執事「すると突然、崖から落ちて2人とも死んでしまいました。なーぜだ?」




少女「ううん……」


執事「どうです?」


少女「『なーんだ?』じゃあないのは久しぶりね」


執事「たまには趣向を凝らしまして」


少女「うん、降参」


執事「答えは、注意不足です」


少女「おおお」


執事「お嬢様も肩に注意が足りていないようで」


フワッ


少女「あ」


執事「その毛布をお掛けになってください」




少女「気障ねえ」


執事「なんとでも」


少女「さあ、次よ次」


執事「まあ、コーヒーで一服しましょう」


少女「飲みながら!!」


執事「はいはい。まったく困ったお嬢様だ」


コポコポ


執事「3人の男がコーヒーを1杯ずつ飲みました」


執事「砂糖は3人で計14個入れました」


執事「3人ともカップには『奇数』の砂糖を入れました」


執事「どうやったでしょう?」




少女「え、算数の問題?」


執事「そうかもしれませんね」


少女「算数嫌い」


執事「好き嫌いはよくありません」


少女「私はいつも3個だから……これって奇数だよね?」


執事「奇数ですね。あとの2人で残り11個です」


少女「5個と6個……」


執事「6個は偶数ですね」


少女「ああもう!! じゃあ無理!!」




執事「正解は1個、1個、12個です」


少女「へえ」


執事「……」


少女「え、12個って奇数なの?」


執事「数の定義では偶数ですが、コーヒー1杯に12個も入れるなんて」


執事「非常に奇なる数と言えますね」


少女「……ほほう」


執事「わかりましたか?」


少女「なんとなく!! つまり屁理屈の問題ね?」


執事「ええ、まあ、そういうことです」




執事「そろそろ寝る準備をしませんか」


少女「まだ眠くない」


執事「では次の問題が終わったら寝る準備を」


少女「はあい」


サラサラ


執事「これを読んでみてください」


少女「ま、み、ぱ、む、め、も」


執事「これ、なーんだ?」


少女「え、暗号かしら」




少女「まみむめも」


執事「違います」


少女「ぱ、ぱ、ぱ……」


少女「パパ?」


執事「違います」


少女「わかんない」




執事「では、こちらにお着替えください」


少女「まだ問題終わってないもん!!」


執事「ですから、これが答えでございます」


少女「パジャマ……」


執事「ええ」


少女「!!」パァァァ


執事「はい、ばんざーい」


少女「んんー」




少女「寝る前に、最後の謎謎して?」


執事「ふぅ……最後ですよ??」


少女「はあい」


執事「ベッドに入って聞いてくださいね」


少女「はあい」


執事「ちなみにお嬢様の1日の最高正解数は」


少女「4回!!」


執事「最後の問題で正解すればそれに追いつきます」


少女「ほんとに!?」


執事「頑張ってください」


少女「はあい♪」




執事「天地がひっくり返ると、とても偉くなる動物、なーんだ?」


少女「うーん」


執事「ヒント、英語が関係ありますよ」


少女「英語ね!! 算数よりは得意だわ」


執事「結構でございます。得意意識は大事でございます」


少女「偉い……王……KING?」


執事「いい線でございます」


少女「神!! GOD!!」


執事「はい、ということは?」




少女「GOD!!」


執事「お嬢様、神様を動物だとおっしゃられるので?」


少女「あ、そうか」


執事「天地がひっくり返ると、ですから」


少女「G・O・Dだから……」


少女「DOG!! 犬ね!!」


執事「正解でございます」


少女「やった♪」


執事「お嬢様はどんどん賢くなられますね」


少女「そうかしら。あなたのおかげよ」


執事「ありがとうございます」




執事「それよりも、パジャマの裾がひっくり返っておられますよ」


少女「あ、ごめんなさい」


執事「お腹を冷やしますよ」


少女「はあい」


執事「では、おやすみなさいませ」


少女「あ、4問正解のご褒美は!!」


執事「ああ、そうですね。なにがよろしいですか?」


少女「寝る前にぎゅってして」


執事「それで、よろしいのですか」


少女「うん」




執事「ふぅ」


少女「早く早く」


執事「では、おやすみなさいませ」ギュ


少女「うん、おやすみー」ギュ


執事「…」


少女「…」


執事「まだでございますか」


少女「もう少し」




執事「では、おやすみなさいませ」


少女「明日も、楽しみにしてるからねー」


執事「はいはい」


少女「じゃねーおやすみ♪」


バタン


執事「ふぅ……やれやれ」


少女「うふふ」


執事「さて、私も寝ましょう」


少女「ぬくぬく」

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