平和な世界から改めて君を見る

メガネの欠片

第1話 パル=ジェルシャ

「お前、女だろ? パル。たばこなんて吸ったら子供産めなくなるぞ」

「子供なんて必要ない。一服ぐらいさせろ」

そう吐き捨てると男性兵士はやれやれといった様子でため息をついた。

「まだ18だってのに35の俺に敬語も使えないとは……今どきの女子高生は怖いね」

「煽る暇があるなら銃の整備でもしてろよ」

「はいはい……全く、オカンかよ」

ぶつぶつ言いながら部屋を出て行く男性兵士の背中を見送りながら私はたばこの煙を吐き出した。もわもわとした白い煙が天井まで広がっていく。


ソレ国の都市であるジラソルに派遣されてから今日で一週間が過ぎた。戦況はソレ国が優勢と変わらず。二ヶ月前までは我が国、メースが圧倒的にソレ国を追い詰め、多くの土地を占領していた。しかし、他国からの支援、それに続く新兵器の登場にメースは対応できなかった。多くのメースの兵士が殺され、占領していた土地はみるみるうちに奪還された。そしてちょうど三週間前、我々に残された占領地はジラソルとカルトール、二つの都市のみとなった。特にジラソルは我々の主戦力である戦車の燃料、兵士達の食料、武器、弾薬等が大量に保管されている場所であるため、ジラソルがやつらの手に戻れば我々の敗北が決定的になることは猿でもわかった。そこで政府はメースのほぼすべての兵士をジラソルに送る決断をした。その甲斐あって、半分奪還されていたジラソルの土地はまた我々メースの占領地となった。地の底まで下がっていた兵士達の士気は再び盛り上がり、奪還された土地を再び占領すべく立ち上がった……その矢先のことである。ソレ国の新型戦車、H421の攻撃が始まった。たった二両の戦車に我々は手も足も出せず、向かっていった兵士は蚊を潰すかのように一瞬で肉の塊となった。そして今に至る。鳴り止まぬ銃声、死体となっていく仲間。精神の限界に達し、おかしくなった兵士も少なくなかった。

戦況は一気に悪化した。


今日死ぬかもしれないな。そんなことを考えながらアサルトライフルを構える。照準をこちらに気づいていない敵に合わせ……撃つ。凄まじい音が耳元から聞こえた直後、頭から血を流して倒れる敵の兵士が見えた。

「これで八人目か……意味ないな」

荒廃したビルの四階から見える景色は時に殺風景で時に燦然と輝いて……時に赤く染まる。

「どうした?! 何があった?!」

階段を駆け上がってきた先ほどの男性兵士が息を切らしながら私にそう問うた。

「別に、いつもと同じように敵を殺しただけだよ」

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