第14話 サッカー界からの刺客
神奈川県某所────廃ホテル。
夜の幕が下り始めた午後七時過ぎ、都市部から大きく離れた場所にある廃ホテルには、数十人のスーツを着た大人達がそこに集まっていた。
「おおー……すげえ人いるじゃん。しかも何か偉そうな奴ばっかというか、どっかで見たことある奴もいるな」
「すごい……! 本当に廃ホテルの中にリングがある……!」
「とんでもねえなこりゃあ……わしは夢でも見てる様な気分だわい」
俺達は会場に着くと周りを見渡す。南方親子はどこか異様な雰囲気を感じながら、目の前の非現実的な光景を受け入れる努力をする。
「拳! よく来てくれた、調子は良さそうだな」
「監督! 朝から腕が鳴ってしょーがねえよ、早いとこ
無数の大人達の中から中嶋監督が出てきてこちらに来た。南方親子とも挨拶を交わし、監督は周りを見渡す。
「しかし落ち着かねえ雰囲気だな。まるで廃ホテルで肝試しでもするみてえだな」
「ざわつくのも仕方あるまい。ここにいるのは全員が"野球"関係者と対戦相手の"サッカー"協会の関係者、そしてオリンピック委員会も来ていて場を仕切っている。
勝負を公平に保つため他のスポーツ協会関係者は出入り禁止だし、そもそも会場も秘匿されているからな。それに、どちらの協会も負けたら後が無いから必死さ……しかしよりによってサッカーと対戦とはな……」
監督の目が厳しくなる。野球とサッカーの関係は『水と油』、決して混じることなき人気スポーツ。見えない確執は一般人が考えるよりも大きいのだ。
「監督安心しろって、サッカーだろうがバスケだろうが楽勝だっての! 俺の腕っぷしの強さはよく知ってるだろ?」
「ふむ……そうだなと言いたい所だが、油断は禁物だ。奴等もお前と同様の腕利きを用意してくる筈、当日まで相手が読めないのは互いに不利だな……」
難しい顔の監督とは対照的に、俺はひたすら楽観的である。
「お父さんどう思う? 相手はサッカー、ケンちゃんはどう立ち回ればいいかしら……?」
「うーむ……敵がプロの格闘家じゃなくプロのスポーツ選手ってところが
しかしな、わしは不安だ……何かこの勝負、
南方親子は不安げに東谷を見守る。当の本人はジムの刺繍の入ったトランクスを着用して、今か今かとシャドーボクシングをしている。
「拳坊、バンテージ巻いてやるからちょっと来い」
オッサンに呼ばれると俺は手を差し出す。
「これはボクシングの試合じゃねえからボクサーグローブは無しだ。故にお前のパンチの威力はいつも以上のものを出せる……が、だからこそ
「あいよ……オッサンよお、不安かい?」
「バカヤロー、不安どころじゃねえ。だがな、心のどこかでお前を期待している自分がいるのも確かだ。いいか、練習通りのパンチを打ってこい。下手な戦いするようならすぐにでもタオルを投げるからな」
俺はオッサンにバンテージを綺麗に巻いてもらうと、『あんがとよ』と言って互いに背中を叩き合った。
試合用のオープンフィンガーグローブを手にはめると、準備は万端といったところで俺は深呼吸をする。
間もなくすると、廃ホテル中央にあるリングにまばゆいライトがいくつも当てられて、そこに司会が立った。
「皆様、おまたせ致しました。これより『スポーツマンバトルトーナメント』の予選を行います」
ぱちぱちと静かでささやかな拍手が周りから出ると、野球協会とサッカー協会は睨み合うように赤コーナー側と青コーナー側から対峙した。
「それでは選手の入場です────赤コーナー、プロ野球協会所属……『東谷 拳』選手の入場!」
連盟関係者と南方親子が見守る中、俺は四角いリングに勢いよく上がって叫んだ。
「ガッツあるし!!」
気合は充分、後は勝つだけの人生ってなもんだ。
「ケンちゃん! 頑張ってー!」
客席から黄色い声援、なによりも力になる。俺は腕を振ってテンションをさらに上げた。
「続きまして、青コーナー……プロサッカー協会所属────『
その選手の名を聞いて、野球協会側は全員耳を疑った。
「「「に、西山 蹴だと──!!??」」」
ざわめく野球陣営に対し、その反応を見てにやつくサッカー陣営。そして青コーナーから静かにリングに上がる男がいた。
年齢は20半ば程で、少し長めの黒髪に男性アイドルも顔負けするような美顔である。見た目は細く見えるがしっかりとした筋肉質な身体……まるでミケランジェロもびっくりな彫刻のように整った男であった──。
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