第126話 苦手の克服
『お~い! ニャンニャン! 聞こえますか~? お~い、お~い!』
パトリシアさまの待つ居城に戻る馬車の中で、念話で何度も呼びかける。すると、何度目かの呼びかけで漸くニャンニャンと念話が通じた。
『あい! 聞こえるのです! 念話が通じなくて心配していたのです。ケイさまは今どこにいるのです?』
元気そうなニャンニャンと連絡が取れて、ひとまずほっとする。
『え~と、色々あって街の東側に行ってたんだよ。今はその帰りの馬車の中だね。よかった~! オレも通じなくて心配だったんだよ~みんなも無事……なんだよね?』
『あい、大丈夫だったのです。でも、あれは何だったのです?』
『えっ! 出くわしたの?』
『あっ! で、でも隠密でやり過ごしたのです。だから全員無事なのです』
『ふ~~っ、そっか~! よかった~。本当にニャンニャンがいてくれてよかったよ。襲われそうになったのかと思って、背筋が凍ったよ……とりあえず詳しい事は後で話すから、お城で落ち合おう』
『あい、丁度、今から使用人の服とかの荷物をみんなと一緒に届けに行って、それを見届けてから部屋に戻ろうと思っていたのです』
『ん~~……平気そう? 危ないなら別に荷物を届けるのは、明日でも良いんだけど……』
『大丈夫なのです。あれの気配はもう感じないのです』
『そうなの? ん~~まあ、その辺はニャンニャンの判断に任せるよ。じゃあ、また、あとでね。みんなにも、よろしく言っといて』
『あい、またなのです』
念話を終了して、今の会話を思い返す。まさか、レッドキャップが逃げた先にニャンニャンたちがいたなんて……その事に思いが至らなかった自分の迂闊さを猛省した。もしも万が一、最悪な事態になっていたらと想像すると、また背筋が寒くなった。
♦ ♦ ♦ ♦
「ルーナ、大丈夫っだった? 何か言われてたでしょ?」「最初の人、大きな声出してたけど怒られちゃった?」「私の縛り方が良くなかったかな~……?」
依頼の報告を終えて戻ると、心配していたのかみんなが集まり小声で質問される。
「え~とね……とりあえずは問題なく納品できたよ。でも、ん~……何があったかは聞かれたら不味いかもしれないから後で話すね」
私が話し終えると、ニャンニャンちゃんからみんなに念話が届く。
『じゃあ、とりあえすギルドから出るのです』
「「は~い」」」「おっけ~」
「「あっ!」」「ジュリアちゃん! 凄い! そういう時に使うんだね」
『そんな事どうでもいいのです。それよりも今、ケイさまから連絡がきたのです』
マヤちゃんがジュリアの『おっけ~』に感動していると、ニャンニャンちゃんにバッサリと切り捨てられる。(しょんぼりしてマヤちゃん可哀そう……)
「ケイは何って言ってたの? 無事なんだよね?」
ジュリアの質問にみんなも黙って答えを待つ。
『あい、元気だったのです。何か用事で街の東側に行っていて、もうじき帰ってくるそうなので、あたちは荷物を届けたら、お城でケイさまを待つつもりなのです。だから、みんなも荷物を届けたら今日は解散なのです』
「……じゃあ、ケイとは今日は会えないんだ」
『ケイさまも忙しいのです。それにみんなにもよろしくと言っていたのです』
「私たちにも念話してくれてもいいのにね」
『念話をしてもジュリアは念話で答えられないのです』
「あっ……」
『それにその前に魔力操作ができないと念話どころじゃないのです』
「うっ……」
その言葉はジュリアだけでなく、私やマルチナさんの胸にもグサリと刺さった。
♦ ♦ ♦ ♦
その後、大量の荷物を領主さまに届けに行く途中、先程の受付での出来事をみんなに伝える。
「え~っ! じゃあ、最初の受付の人はお貴族さまだったんだ……怖いね……」
その話を聞いて発したマヤの意見に、ニャンニャンちゃん以外の全員が大きく頷く。ニャンニャンちゃんは何とも思ってないみたい……。
「でもね、後から来た人がエリンさんっていう人だったんだけど、その人が助けてくれてたから平気だったよ。だから、みんなも今度から受付に行く時は、エリンさんがいたらそこに並んだほうがといいかもね」
「エリンさんね、おぼえとこ……。でも、お貴族様でも働くんだね?」
ジュリアの疑問に私も含めてみんなも頷く。
『それならケイさまと話したから、知っているのです。この国の貴族の子供は跡取りしか貴族になれないのです。だから、成人する前に貴族になれる功績をあげるか貴族と婚姻を結ばなければ、成人後は平民として生きていかなければならないのです』
「えっ! 成人したら平民になっちゃうの?」
『まあ、それでも実家は貴族なのです。本当に平民と同等に扱われることは少ないのです』
「……それじゃあ、あの受付の女の人も平民だったのかな?」
わたしの言葉にジュリアも反応する。
「ああ、そっか、だったら怖がることなかったじゃん」
『う~ん……でも成人前に社会勉強で来ている可能性もあるのです。それに何かあったら後ろに貴族がいるのです。関わらないに越したことはないのです』
「……私、何かそんな話を聞いたら、一人で受付けできるか心配になってきました」
「大丈夫だよ! 別に一人で行かなきゃいけないわけじゃないから、誰かと一緒に行けばいいんだし」
「うんうん、そうだよ」「私が行ってあげるよ、でも、私の時はついてきてね」
「マヤ、ありがとう。そっか~そうだよね。よかった~」
みんなに励まされて、不安が少し解消されたかにみえたマルチナさんに悲劇が訪れる。
『そんなに一人が心配なら練習すれば良いのです。今日のこの荷物のやり取りはマルチナがやるのです』
「えっ! 無理です無理です。副リーダーごめんなさい。それだけは許して下さい。ほんとに……」
マルチナさんはそれを聞き、青ざめた顔でニャンニャンちゃんにすがりつく。
『駄目なのです。苦手は早いうちに克服した方が良いのです』
「しょんな~……」
マルチナが凄い早口になったのも驚いたけど、それよりも苦手なことは出来るだけ言わないようにしようと心に誓った三人であった。
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