第105話 アンチエイジング

 早速、女性陣でサロンに移動して、パトリシアさまのドレスをみんなで見る事となった。アメリアさんの手を借りながら、紫色のドレスを箱から取り出しトルソーに飾ると、女性陣から歓声が上がる。


「とても鮮やかな色ね! でも少し変わった形の様だけど……ケイ! 説明してくれるかしら?」


「はい! このドレスはバッスルドレスといいましてヒップラインを美しく見せる為に、ドレスの中に腰当をつけてお尻の部分だけに膨らみを作っています。この形の利点はウエストが細く見える効果があり、従来のドレスに比べて動きやすくなっている所でしょうか……。一応、このドレスに合わせた靴や帽子などの小物もご用意いたしましたが、装飾品の方は申し訳ありませんが、もう少しお時間を頂けますでしょうか?」


 ドレスについてはそれっぽい事を適当に話したのだが、みんな感心して頷いていた。一応、装飾品を作ってはみたのだが、みんながつけているゴテゴテのネックレスをみるとシンプルすぎた気がしたので、真珠や宝石を手に入れてから改めて作る事にした。 


「構わないわ! それよりも今すぐ着てみたいのだけれど良いかしら!」


 パトリシアさまがドレスを気に入ってくれたかはわからないが、とりあえずこの要望は快諾する。


「あっ! はい! もちろん! パトリシアさまの為のドレスなので構いません! では着替えるまで外に出ていますね」


「待ちなさい! あなたしか着方が分かる人間がいないのに、どこに行くというの?」


「えっ! でも……」


「私が構わないと言っているのよ」


 パトリシアさまはオレが男だと知っているのに何で? 息子と同じぐらいの年だから何とも思わないって事か? それとも揶揄っているとか……まあ、パトリシアさまは美人だし、良いって言うなら良いんだけどね。


「……かしこまりました。アメリアさん! 手伝って貰えますか?」


「かしこまりました」


 パーテーションの裏で手を広げているパトリシアさまのドレスを、アメリアさんと一緒に脱がしていく。予想に反してパトリシアさまはドレスの下に結構、着こんでいた。シュミーズ、胸まであるコルセット、ひざ丈のドロワーズ、ペチコートと見えるだけでそれだけ着ていた為、ある意味ほっとしてある意味がっかりしたのだが、ドロワーズの股部分がぱっくり開いている事に気付き、ぎょっとする。


 どうやら閉め忘れとかではなく、股の部分が元々縫われていない構造のようだ。アメリアさんは全くの無反応な為、これが普通なのかと納得するしかない。動揺を二人に悟られないように、何事もなかったかのように作業を続ける。


「ケイさま! この後はどうすればよろしいでしょうか?」


「は、はい! え~と! 腰当を付けていきます」


「かしこまりました」


 その後は出来るだけ視線を上にして、アメリアさんに指示をだしながら無事にドレスを着てもらう事ができた。


「靴はこちらをお履き下さい。パンプスといいましてこちらの商品は少し踵の部分を高くしましたので、慣れるまで少し歩きにくいかもしれませんが……」


「このぐらいなら平気だと思うわ」


「それなら良かったです。まだ途中ですが皆さんお待ちかねのようなので、お披露目されてはいかがでしょうか? 残りの仕上げは皆さんに見てもらいながらでも出来ますし……」


「それもそうね」


 待ち構えていた女性陣から歓声が上がり、パーテーションから出てきたパトリシアさまをみんなが取り囲み褒め称える。


「素敵なドレスだわ~!」「パトリシアさま! 良く見せて下さいませ!」「このレース部分が繊細で素敵ですわ!」


 褒められて明らかに機嫌のよいパトリシアさまが侍女を呼ぶ。


「ジャニス! 鏡を持って来てくれるかしら?」


「かしこまりました」


 この会話を聞き、ある事を思い出す。


「パトリシアさま! そう言えば注文されていた鏡も届いているので、そちらなら体全体を映せますが取り出しますか?」


「…………もう鏡も届いたというの?」


「はい! こちらの箱に入っていますが……」


「……それは贈り物として購入した物だから、開けないでそのままにしておいてくれるかしら? 料金は明日の夜までにはリオスに用意させるわね」


 確か料金の話はしてはいなかったが、ここでお金の話をするのも無粋なので頷いておく。ジャニスに持たせた鏡に自分を映し、笑顔のパトリシアさまを見る限り気に入って貰えたようには思える。


「それではパトリシアさま、他の商品も見て頂いてよろしいでしょうか?」


 パトリシアさまから了解が出たので、興味津々な女性陣に囲まれながら、それらの使い方をパトリシアさまに実際にためしてもらって説明していく。

 

「え~と……次はこちらの帽子なんですが名前をファシネーターといいまして、どちらかというと帽子というよりは頭飾りに近い物なのですが、付けるとなると今の髪型だと難しいかもしれません」


「そうなのね! それでは髪型の担当のメイドを呼べば良いかしら?」


「いえ、私で良ろしければやらせていただきますが? もちろん、パトリシアさまが専属の者にしか髪を触らせないという事でしたら、呼んで頂いて構いません」

 

「…………そ、そんな事も出来るのね……もちろん、構わないわ! あなたがやって頂戴」


 かなり間があったが、言い方的に断り辛かったかな? まあ、出来ない事を出来ると言っているわけではないのだから問題ないだろう。まずはそんなに頻繁に洗っているとは言えない髪を浄化しながら櫛で梳かしていき、神聖魔法を使い髪に元気を与えていく。何か周りがざわついているが気にせず髪型を整えていく。やはり地位の高い女性という事で、今回は夜会巻きといわれる客室乗務員さんや銀座のママさんにも人気の上品で大人っぽい雰囲気の髪型にする事にする。


「パトリシアさま! 何歳か若返ったのではありません?」


 そんな感じで、こぞってパトリシア様を褒め称える周りの女性たちの姿に、やっぱり、どこの世界でも下の人間は大変だねと思いながらも、パトリシアさまの顔をさりげなくのぞく。すると確かに肌艶が良くかなり若返っているように見える。思わず二度見してしまったぐらいだ。どうやら、神聖魔法にはアンチエイジング効果もあるらしい。多分浄化ではないだろうから、祈りか……? 祝福は使ったっけ? おぼえてないや……。

 

「ケイ! これは……?」


「はい、夜会巻きという髪型です」


「何をとぼけた事を言っているのです! 肌艶が良くなった気がするのは、どういう事かと聞いているのよ」


 他の女性陣もどうやらパトリシアさま陣営のようで、若干、怒り気味でオレをみている。悪い事はしていないのに……。


「え~とですね! 髪に元気を与えようと思いまして……」


 先を促すように女性陣の視線が突き刺さる。さすがに誤魔化すのを諦めて話を続ける。


「神聖魔法を使ったら肌にも効いてしまったようです」


 そして部屋は沈黙に包まれた。

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