第92話 心の中の天使

 こんなにお腹いっぱい美味しいお肉を食べたのは、生まれて初めてだった。それに加えて野菜たっぷりのスープと柔らかいパン、さらに美味しい果実水! 今まで食べてきた野菜クズが少し入った味のしないスープと、歯が欠けそうになるほど硬いパンとは大違いだった。私たちも冒険者で成功したら、こんな食事が毎日食べれられるのかな……? 




「マヤ、このスープ美味しいね! 入ってる野菜なんて口に入れると溶けちゃうし凄いよね!」




「ホントだね。たしか『こんそめ』だったっけ? 冒険者で成功したら、毎日食べれられるようになるかもね!」




 確かケイさまが教えてくれたスープの名前はそんな感じだったと思う。街で注文する時の為におぼえておかないと……。




「ホントに美味しいよね! マヤとマルチナはパン食べた? このパンも凄く美味しいよ! それに、柔らかいからスープに浸さなくても食べられるし! 昔、食べていたパンは何だったんだろうね?」




 ジュリアさんがそう言うとみんなから笑いが起こる。多分、みんなも昔の硬いパンを思い出して、同じ事を思っていたのだろう。




「このパンはどこで買えるんだろうね? やっぱりケイさんが買うぐらいだから、高いのかな?」




「う~ん……どうなんだろね!」




「今食べているものは街では買えないのです!」




「えっ? ニャンニャンちゃん! あっ! 副リーダー! それはどうしてですか?」




「ニャンニャンでいいのです! それは簡単なのです! ケイさまが全部、作っているからなのです!」




「えっ! スープはまだ分かるけど……。パンってパン屋さんが作るんじゃないの?」




「だからケイさまは特別って何度も言っているのです。今もクッキーを焼いてくれているのです」




「くっきーって何?」




 私が聞く前にジュリアさんが質問してくれたので静かに答えを待つ。




「焼き菓子なのです」




「あっ! たまに村に来てた行商の人が売ってたかも! 食べた事はないけど、売っていた人は甘いって言ってたよ」




 どうやらルーナさんは知っていたらしい。私たちがいた教会では甘い果物も滅多に食べられなかったから、いやが上にも期待が高まる。 




「今、ケイさまからもう少しかかるから、マヤとマルチナに荷物を渡しておいてと言われたのです」




「えっ? 今?」




 ジュリアさんが疑問に思うのも当然で、しばらく前にケイさまは森の方に歩いて行ったまま、まだ戻って来ていない。




「あたちとケイさまは心の中でお話が出来るのです。それより荷物を渡すのです。これがマヤで、こっちがマルチナの分なのです。着方はジュリアとルーナが教えるです」




「は~い!」「わかりました」




 ニャンニャンちゃんが影から物を出すのはさっき見たので、みんなもすでに当たり前のように驚かなくなっていた。お礼を言ってバッグを受け取りワクワクしながら開けてみると、中には綺麗な布で作られた服やナイフなどの小物が入れられていた。




「見せて見せて! ふ~ん……中身は全部、私たちと一緒だね! まず、今着ている服を全部脱いで、一番下にこれとこれを着て、あっ! 小さいリボンが付いている方が前ね」




 ジュリアさんとルーナさんに教わりながら、マルチナと私はその服を着ていく。こんな素敵な服を着るのは初めてで、嬉しさのあまりどうしてもニヤニヤしてしまう。マルチナを見ると同じで嬉しそうに着た服を見つめていた。




「着れたらその上にこの防具をつけて、ブーツも履くです」




 今度はジュリアさんたちと同じ革のブーツと防具が影からあらわれる。これも教わりながら装着していく。




「何か同じ格好になると仲間って感じがしますね!」




「うん! その気持ちわかる! あっ! ルーナ! ブーツのひもの結び方おぼえてる?」




「おぼえてるよ! ケイさんに教わったよね? ジュリア、もう忘れたの?」




「いや、あははは……」




 ルーナさんに習った結び方は、きつく締めてもひもの先を引っ張るだけで簡単に解けるので、他にも応用できそうでとても便利そうだった。




「知らない事ばっかりで勉強になりますね」




「……マヤちゃんたちって何歳なの?」




 ルーナさんにそう聞かれたので、神父さまの話では多分、九才か十才ぐらいだと答えておいた。




「じゃあ、同じぐらいじゃん! それにもう同じパーティーなんだから、そんなに丁寧に話さなくていいよ! マルチナも!」




「もう! ジュリア! 元々、二人とも丁寧な話し方の子かもしれないでしょ!」




「あっ! そうか、え~と、もう仲間なんだし、気を使わないでねって事! だから二人とも私の事はジュリアって呼んでね」




「急に馴れ馴れしくするのが苦手な子もいるんだから、ジュリアはもうちょっと気を使った方がいいよ!」




「ちょ、ちょっと、ルーナ! ひど~い」


 


 二人のやり取りにマルチナと私は大笑いしてしまった。こんなに笑ったのは村を出てから初めての事だった。










 ♦ ♦ ♦ ♦










 クッキーを焼いている間に魔石を使って魔導具を作成しようと思い、まずはブタネズミの魔石を鑑定をしてみる。するとレア度は高くないものの麻痺の力を宿している事がわかった。試しに自分の剣の柄頭部分を加工して魔石を取り付けてみると、攻撃を当てるごとに麻痺値を蓄積させることのできる剣が出来上がった。よく考えたらオレ自身が麻痺の付与が出来ないから、この魔石は意外と当たりだったかもしれない。




 少し勿体ないけど十一個もあるから、半分ぐらいこの魔石に付与を上書きして作る事にする。アクセサリーといえばシルバーとゴールドぐらいしか思いつかないんだけど、確かライカンスロープは銀が苦手だって話だったからゴールド一択? 正直、付けるならシルバーが良かったんだけど、他のメンバーが付けてても嫌なんだろうし、こればかりはどうにもならないか……。




「でもゴールドは高価すぎるし強盗に襲われても困るしな……何かあったかな?」




 ミドリンたちに貰った鉱石から材料をみつけようと思い、中二階に向かう。


 


「ステンレスは錆びなくて良さそうだけど、安っぽくなりそうだからな……。えっ! プラチナ? あそこの洞窟ってプラチナもとれるの?」




 アクセサリーの材料を探して何気なく鉱石や延べ棒を鑑定していたのだが、ミドリンたちから貰った物の中にプラチナが入っていたことを今頃になって知る。あの場所は今の所、価値がないと思われているので、重曹を使った商売をする為に密かにあの土地を安く買い取れないかと狙っていたのだが、白金貨の材料が取れるならあの場所の価値は間違いなく跳ね上がる。是非とも欲しいが『領主さまに正直に伝えなさい。少しだけど報酬が出るかもしれないわ!』と心の中の天使が囁く。オレはその天使からそっと目をそらす…………この事については、あとでニャンニャンに相談しよう。




 ♦ ♦ ♦ ♦



〇お金


銅貨  10円 →1リーン

大銅貨 100円

銀貨  1000円

大銀貨 10000円

金貨  100000円

大金貨 1000000円

白金貨 10000000円

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