第90話 最初のルール
オレは土下座しているマルチナの後頭部を眺めながら、どう答えればいいか考えていた。しかし、いきなり奴隷にして欲しいと言われても、はい! 喜んで~とは言えるわけもないし、とりあえずもう少し話を聞いてみる事にした。
「え~と……パーティ―に入るって事じゃ駄目なの? 奴隷じゃなきゃいけない理由があるなら聞かせてくれる?」
「奴隷になれば契約魔法で、ご主人さまの命令に絶対に逆らえなくなると聞いた事があります。それでマヤを襲わないように命令して欲しいんです」
なるほどね! そういえば神聖魔法にもコントラクトってあったな……それの事なんだろうか?
『ニャンニャン! ちょっといい!』
『あい!』
素早くニャンニャンがオレの足元に現れる。
『この子が奴隷にかける契約魔法をかけて欲しいって言うんだけど、神聖魔法のコントラクトの事かな?』
『全然違うのです。奴隷の契約魔法はギアスの方なのです。体に呪印を刻むことで相手の承諾なしに発動させて、いいなりにさせる魔法なのです。契約者の命令に背くと顔や体中が腫れ物でおおわれて最後は……』
えっ! こわっ! 最後どうなるの? 知りたいけど怖くて聞けない……。それは奴隷も逃げようとは思わないよな……。そもそも、そんな魔法は使えないけど、使えたとしても使うのは無理だと思う。
『なるほど、大体わかった。ありがとう! 後で詳しく教えて!』
『わかったのです』
「え~と、マルチナだったよね! とりあえず、立とうか! 奴隷には出来ないけど、マヤや人を襲った時にそれを止める魔導具は作れそうだよ」
「本当ですか! 作って下さい! いくら高くても一生をかけてお支払いします。お願いします」
「丁度、ブタネズミの魔石も手に入ったからすぐに作れると思うよ。作るにはこの子に手伝って貰わなきゃだけど……」
「えっ? このネコに?」『えっ! あたち?』
『ニャンニャン! 付与できるよね!』
『もちろんなのです』
『じゃあ、ブタネズミの魔石に、シャドウバインドの付与をして欲しいんだよね……』
『なるほどなのです。任せて欲しいのです』
ニャンニャンを見つめているマルチナをとりあえず立たせる。ワンピースというか穴の開いた袋の膝の部分の土を払いながら、その時に初めて人間の状態のマルチナをしっかり見たのだが、かなり痩せていてまともな食事が出来ていなかった事が分かる。こんな華奢な少女があんな大きな獣人に変身するとは、誰も想像ができないだろう。色々な意味で手遅れになる前に出会えてよかった。
「まずは、服……いや、食事かな? まあ、とりあえず、みんなの所に戻ろう!」
「は、はい」
どうしよう……いっその事、この四人に能力について教えちゃう? 一緒に行動するならいずれ遠くない未来、オレとニャンニャンの能力はバレるだろうし、みんなを色々助けてあげたいけど隠し事が多すぎて、便利なはずの能力がかえって不便な感じなんだよね。でも、どこまで話していいものなのか、あれこれ考えても結局、答えは出ないまま三人と合流する事となった。
♦ ♦ ♦ ♦
マルチナがこのパーティーのリーダーであるケイさまと話を終えて、無事に戻って来た事にほっと胸を撫でおろした。ジュリアさんとルーナさんには何も心配する事は無いと言われたが、やっぱり、少し心配だった。
「え~と、マルチナと変身について話したんだけど、何とかなりそうだから二人のパーティーへの加入を…………簡単に言えば二人は今から仲間になってもらう事になりました~! はい! 拍手~!」
言われるがままにみんなで拍手をして、顔を見合わせる。
「二人とも良かったね。これからよろしくね!」
ジュリアさんとルーナさんにお礼を言いながら、マルチナとも手を合わせて喜び合う。
「依頼の途中ですが……そんなものは直ぐ達成できるので、早速、歓迎会を始めます」
「「カンゲイカイ?」」
そのカンゲイカイというものは簡単に言うと、私たちがパーティーに入ったお祝いに、食事をさせてくれるという事らしい。
「今からオレの能力を使って食事の用意するけど、オレの能力もそうだけどパーティーメンバーの能力は絶対に他人には話さない事、これはこのパーティーのルールとします。ルールを破った理由がメンバーで話し合って許せないと判断された場合は、抜けてもらいます。分かりましたね」
「うん! わかった!」「「は、はい!」」「わ、分かりました」
「今回のルールはオレが勝手に決めちゃったけど、今後はみんなで話し合って決めていこう。そんなルールはいらないとかの反対意見も受け付けますが、今回のルールは絶対です。なんでだか分かる人、手を挙げて!」
「はい! ルーナ!」
「え、え~と、冒険者同士でも襲われることがあると聞いたことがあります。能力を知られているとそういう相手に対策されてしまうからです」
「おお、正解! 他、分かる人~」
「はい! ジュリア!」
「面倒に巻き込まれるから」
「ん~! 浅いようで深い! 正解! 他~わかる人」
二人が答えている中、私たちだけ答えないのはまずい気がする。マルチナと目が合い、二人で手を挙げる。
「はい! マヤ!」
「はい! えっと、仲間を裏切る人は最低だからです」
「ん~! 正解!」
「じゃあ、次はマルチナ!」
「はい! 私のように人に知られるとまずい能力もあると思うので、バレると仲間全体が危険になる事もあるからです…………やっぱり、私はこのパーティーに居ちゃいけないんじゃ……」
「それについては何とかなると思います。でも、その危うさを理解しているかしていないかでは、大きな違いなので理解しているなら問題ないです」
「は、はい……」
「じゃ~最後、ニャンニャン!」
「「えっ!」」「「…………」」
「ケイさまに喋って構わないと言われたので、話すのです! あたちはケットシーという妖精族で、それだけで、そこのライカンスロープのメスと同じで捕まえて売るだけでも、人族の世界では大きな利益になるのです。そして、ケイさまの能力は王族も欲しがるような凄い力なのです! だから、知られてしまうとケイさまを利用しようとしたり、最悪は奴隷にしようとしたりするかもしれないのです。仲間を人質にしてでも欲しい能力なのです。だから、絶対に言っては駄目なのです」
最初に遭遇した時に、喋った気がしたのは気のせいではなかった。まさか、生きているうちに妖精に会えるなんて……。
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