第72話 告げた真実
モレト村の神父さまに聞いた話では、ここの領地は今の領主が押し付けられたような話だったし見てきた村も貧しい村ばかりだったので、勝手にここの領主は貧乏貴族だと思い込んでいた。でも、どうやらそれは勘違いだったようで、最初の想像に反してここの領主の住まいは、まさに居城でかなり豪華なものだった。しかし、あれほどの城になると維持するだけでも大変そうだが、何によってその収入を得ているのかは想像もつかない。気になる事があったので、少し探りを入れてみる事にする。
「そういえば、この領の主な産業は何があるんでしょうか?」
「そうですね……希少な鉱石が出る鉱山を幾つか保有しています……あとその鉱山に出る昆虫型の魔物の甲殻と魔石も他領に人気が高いです」
ほ~鉱業か! 他にも作れる物が増えるかもしれないし、面白い鉱石が手に入るのなら是非とも欲しい。
「希少な鉱石というのは、どんなものが出るんですか?」
「そうですね……領主さまに許可がいただけましたら一度ご案内いたしますね」
「あっ! はい、よろしくお願いします」
何か上手くはぐらかされた気がするが、外部の者にぺらぺら話せるわけないか。それによく考えたら、聞いた所でどの位の収入になるか調べる手立てがなかった。まあ、収入源が犯罪とかいかがわしい感じだったら、とっとと逃げ出せばいいか……。近付くほどに迫力を増す城をみながら、何もない事を願った。
♦ ♦ ♦ ♦
城の門を抜けると広い庭園が広がっており、そこでも豊富な財力をうかがわせる。昔、貴族は見栄をはって競い合い、無理をしてでも服装や装飾品、そして屋敷などにも大金をかけていたと本で読んだ気がする。それで色々不衛生でトイレはボットン便所以下なんだから、お金の使い所が違うと言いたい。ほどなくして城の入り口に馬車が止まり、大勢の使用人が並んでいる事に気付いた。
「ケイ様、到着いたしました。長旅お疲れさまです」
ノア様がそう言い終わると、図ったかのように外の使用人により馬車のドアが開かれた。
「それでは参りましょう」
両サイドに頭を下げて並ぶ使用人たちの間を、恐縮しながらニャンニャンを抱っこして歩いて行く。何となく気になってしまったのだが、メイドさんたちの着ている服が、制服ではないのか色は似ているが統一されてはいなかった。とてつもなくコレジャナイ感が凄い、これは全員の分のメイド服をオレが作ってでも、改善の必要があるようだ……。
玄関ホールに入ると吹き抜けの広いスペースには、豪華なシャンデリアや高そうな花瓶に飾られた花が当たり前のようにあり、奥にある階段を上がった正面の壁には大きな家族の肖像画が飾られていた。あほ面でそれらを眺めているとノア様に男性を紹介される。
「初めまして、この城の執事をしております、リオス・マルドラでございます。ようこそ、おいで下さいました」
「はじめましてケイ・フェネックと申します。しばらくこちらにお世話になる事になりました。よろしくお願いします」
「旦那様はただ今出掛けておりまして、戻ってくるまでの間、奥様がお話を聞かれたいそうなのですがよろしいでしょうか?」
「はい、喜んで」
「ありがとうございます。長旅でお疲れの所、申し訳ございません」
「いえいえ、問題ありません」
「あの……その抱えている生き物は安全なのでしょうか?」
「はい、私の言う事には従ってくれますし、危害を加えなければ問題ありません」
『大丈夫だよね?』
『問題ないのです』
「そうですか……」
その後、リオスさんの指示でお付きの男性は奥様の下へ向かい、応接間らしき部屋に案内される。どうやら、ノア様とセレスさんも一緒に来てくれるようなので安心した。広い部屋の中には高価そうな調度品が置かれ、美術品も飾られている。こういう物が売れるのなら、いくらでも真似して作れるけど、使用権だっけ? あれがどこまで適用されるかだな……。そんな事を考えているとドアがノックされ、ドアが開かれる。
「奥様がいらっしゃいました」
その声に反応してソファから立ち上がり、片膝をついて頭を下げる。
「あらあら、かわいいお客人ね、顔を上げて楽にしてちょうだい」
奥様はソファに座るとオレも座るようにとすすめてくれた。すると紅茶とクッキーが素早くメイドによって置かれていく。
「紅茶とクッキーでもいただきながらお話をしましょう! ようこそ来てくれたわね! 商人のケイ・フェネックでよかったかしら?」
「はい、初めましてケイ・フェネックと申します。この度はお招きいただき、ありがとうございました。しばらく滞在させていただけるという事で、御迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願い致します」
「あら、とても礼儀正しいのね。うちの子供たちも見習って欲しいわ! 私の事はパトリシアと呼んでちょうだい! ところで、魔法には詳しくないのだけれど、あなたの隣にいる不思議な毛色の生き物は従魔でいいのかしら?」
「え~と! 名前がニャンニャンといいまして私のお友達です! とてもお利口で優しい子なので意地悪をしなければ、危険は一切ありません! この子が何かをしたら私が全て償うつもりです」
「――だそうよ! 下がりなさい」
「しかし、奥様…………わかりました」
二人のお付きの男性が奥様の後ろに待機する。どうやらニャンニャンを警戒していたようだ。
「さわってもいいかしら?」
「奥さ……」
後ろの二人は奥様に一睨みされて、諫める事を諦めたようだ。
「彼女の許可が出れば構いません」
「彼女……?」
「この子は女の子なので」
『さわりたいって! どうする?』
『撫でるぐらいならいいのですよ』
「パトリシア様、撫でるぐらいならいいそうです」
「何も言ってなかったように見えたのだけれど……」
「私たちは通じ合っているので、言わなくてもわかるんです」
ニャンニャンに奥様の下に行ってもらう。奥様が恐る恐るニャンニャンの頭をナデナデすると、ニャンニャンは奥様の手に頭を擦り付けた後、膝の上で丸くなってしまった。
「まあ、なんて可愛いらしい!」
「どいて欲しければ、言ってもらえればどいてくれますので……」
「人語を理解しているなんて、ニャンニャンはとても賢いのね! よしよし!」
奥様は自分の膝にニャンニャンをのせたまま、会話を続けるようだ。すすめられて言われるがままに、紅茶を飲んでクッキーを食べる。
「どうかしら?」
「とても美味しいです」
「あなたを見ていると、大はしゃぎで食べるうちの子供たちが心配になるわ……」
「そういえば、お子様方たちに教える事になるかもしれないと言われたのですが」
「あなた、年はいくつなのかしら?」
正直に十四歳と答える。
「そう……上の子と同い年ね」
男爵さまのお子様は四人いて、それぞれの年齢が長男が十四歳、次男が十二歳、長女が七歳、次女が五歳なのだそうだ。
「う~ん! 一番上の子は同い年の女の子に習うのは、プライドが許さないかも知れないわね……」
「あの~パトリシア様! 私は男なんですが……」
流石に貴族に嘘をつくのはまずいと思って真実を告げる。
「えっ?」「「んっ? んっ? …………ええ~~~っ!」」
話をしていたパトリシア様よりも、むしろ横で聞いていたノア様とセレスさんの方が驚きは大きかったようで、ノア様は口をパクパクさせ、セレスさんは口を手で押さえ只々オレの事を見つめていた。
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