第69話 三つの条件

 村の宴を抜け出し、喋りまくる妖精のケット・シーを抱えて、暗い森を奥へ奥へと走っていた。




「ふ~~っ! ここまで来れば平気かな? も~喋らない方がいいって言ったのに!」




 立ち止まって振り返り誰も来ていないのを確認して、妖精を下におろしながら話しかける。




「あ、あたちは悪くないのです。あの人族の……多分、メスが無礼だったのです」




 この少しプライドが高かそうな妖精は、光る目でこちらを見つめながらそう答えた。この子は暗闇でも問題なさそうだが、正直オレは暗いのが苦手である。灯りをつけると何か来そうだしな……少し躊躇ったが、探索魔法で周りに人がいないのを確認して、【秘密の部屋】の入り口を出現させる。




「なっ! く、空間魔法!」




「へ~っ! 空間魔法っていうのもあるのか! でもこれはその魔法じゃなくて、ユニークスキルだよ」




「も、もしやあなた様は、王の血を引いているのです?」 




「へっ? よくわからないけど、とりあえず中で話そうか!」




 ドアを開けて妖精を中に招き入れると、部屋を興味深げに見渡している。




「え~と、この段差から上は土足厳禁なんだけど靴は履いてないか……。浄化だけさせてもらうね」




「じょ、浄化! もしやあなた様は神聖魔法まで……」




 自分もついでに浄化して靴を脱いで部屋にあがる。




「お腹空いてるでしょう! お肉でいいかな?」




 振り返ると妖精はうずくまっていた。慌てて近寄ると妖精は喋り出した。




「お願いいたちます。あたちの呪いを解いてくださいませ」




 どうやらうずくまっていたのではなく、ケット・シー流の土下座だったらしい。










 ♦ ♦ ♦ ♦










 とりあえず落ち着かせる為に食事を出してあげると、小さな手で器用にナイフとスプーンを使い食べていた。フォークはやはり知らなかったそうだが、使い方を教えると普通に使えていた。




「こんなにおいしくて、贅沢なお食事は初めてなのです」




「気に入ってくれたなら嬉しいよ。そういえば自己紹介をしていなかったよね。オレの名前はケイ・フェネック! よろしくね」




「あたちの名前は……申し訳ありません」




「事情があるんだし、それはいいんだけど呼ぶ時に困るね。何て呼ぼうか?」




「……ケイ様に決めて欲しいのです」




「えっ!」




 まさかのミドリンに続いて、妖精の名付けをすることになるとは……。ネコネコは小動物と一緒にすんなってキレてたし駄目でしょ……。




「…………ニャンニャンで、ど、どうかな……?」




「分かりまちた。あたちは今からニャンニャンとして生きていきます」




「い、いやいや、生きていくって……気に入らなかったらいつでもね……」




「いえ、とても気に入ったのです」




「な、ならいいんだけどね……じゃあ、お腹も落ち着いただろうから、そろそろ本題に入ろうか!」 




「わかりまちた」




「え~と、さっきの呪いを解くって話なんだけど、鑑定してみたけどそもそもニャンニャンは、呪いにはかかっていないみたいだね」




「そ、そんなはずはないのです。あたちはこの呪われた顔の毛色と闇魔法が理由で、生まれてからずっと城の塔に幽閉されていたのです。それは何だったのですか? あたちはこの呪いを解くために城から抜け出したのに……」




「う~ん! オレはニャンニャンの毛色は凄く素敵だと思うけどな! 魔法も術者がどう使うかが問題であって属性で……闇魔法だから呪われているとか随分、文明が遅れている国なんだね。闇魔法か~! 今度教えて欲しいな」




 ニャンニャンは最初は只々驚いていたが、何かを決心したかのように話し出した。まあ、なんとなく高貴な出自だとは思っていたが、まさかの王女さまだったらしい。しかし、毛色と使える魔法が闇属性だった為、王に疎まれて塔に幽閉されてしまったそうだ。王妃も王には強くは言えなかったようだが、出来るだけ不自由がないように食事の手配や教師を雇ってはくれていたらしい。




 それでも、狭い部屋に閉じ込められている生活には耐えきれず、限界がきてしまったようだ。もしかしたら呪いを解くことが出来たら、他の兄妹同様に愛してもらえるかもしれないと希望を抱き、禁止されていた闇魔法を使い塔から脱出したらしい。


 


「大変だったね!」




 その言葉を聞き体を震わせて静かに涙を流すニャンニャンを、抱っこして子供をあやすように背中をトントンする。しばらくするとニャンニャンは泣き疲れたのか寝息を立てていた。










 ♦ ♦ ♦ ♦










「あっ! おはよう! 朝食出来てるよ! 食べるよね」




 目を覚ますとケイ様が、テーブルに食事を並べていた。




「……あい。あっ! あたちも手伝います」




「大丈夫だよ! もう終わるから! それより食べれないものとかある? ネギとか平気?」


 


「それは猫です。ケット・シーは猫ではありません!」




「ああ、そうだよね! ごめんね! 妖精の事を知らないからゴブリンの子にも怒られたんだよね」




「ゴブリン? そういえばケイ様は妖精の言葉をなぜ話せるのです? やはりユニークスキルなのです?」




「ユニークスキルはいくつか持っているけど、それは普通のスキルかな!」




 ユニークスキルは、王族に発現する可能性が高いと教師に習った記憶があります。やはり、いくつものユニークスキルをお持ちのケイ様は、人族の王の血筋なのでしょう。




「それでニャンニャンは、これからどうするつもりなの? 戻ってもまた幽閉されちゃうんでしょ?」




「……ケイ様、一度呪いを解く魔法をかけてはいただけないでしょうか?」




「うん! いいよ」




 ケイ様はそう言うと『解呪ディスペル』の魔法をかけてくれました。魔法陣が足元に浮かび光が体を包みます。光が収まるとケイ様が鏡を渡してくれましたが、鏡の中のあたちは昔のままのあたちでした……。




「ケイ様、踏ん切りがつきました。どうかあたちを従者として連れて行って欲しいのです」




 ケイ様は少し悩んだ後、こう話されました。




「う~ん……三つの条件というかお願いを受け入れてくれるならいいよ」




「あい、それは何なのです?」




「一つ目はオレのユニークスキルもそうだけど、ニャンニャンがケット・シーだと分かると、利用しようとしたり捕まえようとしたり、色々面倒だから出来るだけ秘密にしておいた方がいいと思うんだ……だから、オレのスキルは内緒にする事と安全を確保できるまでは出来るだけ、人前で言葉を喋らないで欲しい。例え猫と言われても……」




 そんな事で従者になれるなら……




「あい、内緒にするです。我慢するです」




「二つ目は従者としてじゃなくて、仲間として友達として一緒に助け合っていく事」




 今まで欲しかったものが一気に手に入ってしまったのです。貴族、いえ王族は簡単に涙をみせては駄目なのです。昨日も泣いてしまったのに……でも涙が止まらないのです。




「……あい」




「三つ目は語尾にニャをつける事」




「……あい……ニャ?」




「冗談だよ! 今、笑うとこなのに~」




 どうやら、ケイ様は冗談は上手くないのです。でも、なぜかとても笑えたのです。

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