第34話 ファッションチェック

 用意した景品も残りわずかとなり辺りも暗くなり始めていた。しかし村の人たちはまだまだやる気満々のようで、松明やロウソク、さらには各自お酒やおつまみも持ち寄り始めて、軽い気持ちで始めたビンゴ大会は、終わることを許される雰囲気ではなくなってしまった。




「シスターも合間に食べたり飲んだりして下さいね」




 果実水を一口飲んでシスターにもすすめる。




「ありがとうございます。ジャガイモだけでもいくつも調理法があるのですね」




 シスターはフライドポテトを感心しながら食べていた。




「よし、それでは次はこちらにしますね」




 また村の人たちに景品を紹介するために、みんなに見えるようにシスターに掲げてもらう。




「はい! みなさん次の景品はこちらのブーツです。サイズは当たった人に合わせるので安心して下さい」




 また広場に歓声が上がる。どうしても食費を優先するので、靴や衣類には手が出ないと聞いていたので用意してみたが、どうやら正解だったようだ。ゆっくりハンドルを回し数字を確認する。




「では発表します。次の番号は……十八番です」




「ビ、ビンゴ!」




「おっ! ビンゴが出ました。こちらへどうぞ! 拍手で迎えてあげて下さい」




 拍手や歓声の他に溜息も聞こえる中、こちらに駆け寄って来たのはアンだった。




「おめでとう! アン! じゃあ、サイズを合わせよう!」




「魔女様……あの……」




 モジモジしているアンのそばに行き、しゃがんで聞いてみる。




「どうしたの?」




 内緒話のようにオレの耳元で伝えてきた事は、お母さんが誕生日だから、自分の分をお母さんにあげたいという事だった。自分は裸足なのに……いい子すぎて、ちょっと、泣きそう。 




「アンは優しいんだね! 大丈夫だよ! お母さんを呼んでプレゼントしよう!」




 アンの頭を撫でてから立ち上がり、広場に向かってアンのお母さんを呼ぶ。




「アンのたってのお願いで、誕生日のお母さんにブーツをあげたいという事なので、アンのお母さん! こちらにいらして下さい」




 温かい拍手の中、アンの母親は辿り着くとアンを抱きしめ、耳元で何かをささやいていた。それを聞いて幸せそうな笑顔のアンを見て、オレ自身もとても幸せな気分になることが出来た。




「聖女さま、本当にありがとうございます。娘の耳が治っただけで十分だというのに、このような物まで」




 アンの母親はこちらに振り返ると、跪きオレの手の甲を自分の額にあて祈り出した。




「感謝はアンにして下さい。ブーツを当てたのは彼女ですから」




 跪いたアンの母親を立ち上がらせ、椅子に座ってもらい今履いている靴を脱いでもらう。靴は袋みたいな作りで、靴下はウールなのか結構ぶ厚かった。ブーツはちょっと大きめが良さそうだ。少し待ってもらってブーツを作り直しに【秘密の部屋】に戻る。そうだな……靴下もいくつか付けてあげよう。あとはブーツをちゃちゃっと作りかえて、その後に……。








 ♦ ♦ ♦ ♦


 






 出来た景品をもってアンの母親の元に戻る。




「靴下も何足か付けておきますね。それではブーツを履いてみて下さい」


 


 すでに集まって来ていた女性たちが、ファッションチェックを始める。




「これがお貴族様が履く靴下なのかい? 随分と短いね!」「留める部分がないけど、どうするんだい?」「生地はなんだい?」「さわらせて!」




 女性はどこの世界でもファッションやおしゃれが大好物らしい。


 


「貴族が履いているかは知らないですが、最先端であるのは確かですよ!」




 女性たちから歓声が上がる。




「みんなはどんな靴下を履いているんですか?」




 聞いてみると、麻やウールで編んだタイツのような物を靴下と呼んでいるようだ。その上部を上着やベルトに縛ってずり落ちないようにしているらしい。スカートをまくり上げて見せてくれる女性もいて、と、とても参考になった。なるほど、ガータ―ベルトみたいな事ね。




「普段みなさんが履いている靴下よりは短いですが、伸縮……伸び縮みするので、多分それほどずり落ちないと思いますよ! あと脱いだり履いたりが簡単ですし、夏場とか暑い時にいいかもしれませんね!」




 今度は女性たちから驚きと感心の声が上がる。彼女たちの日頃の悩みなのだろう。


   


「それより靴下はおまけですからブーツの方を履いてみて下さい」




 靴下に夢中だった女性たちも我に返ったかのように、ブーツに目をやる。




「まあ、お貴族さまみたいね~」「畑仕事にはもったいないわね」「なら履く場所がないじゃない」




 みんな自覚は無いんだろうけど、ちょくちょく悲しい事を言う人がいる。




「確かそのブーツは農作業用に作られたのが最初だったと思うので、畑仕事は全然問題ないですよ! あと横のプル・ストラップだったかな? それに指をかけて引っ張ると履きやすいはずです」




 またオレの浅い知識を披露し女性たちを感心させる。なお情報の真偽は最早こちらの世界では確認のしようがないので、細かい事は気にしないでおく。




「すごい! 履けました! ケイ様! 本当にありがとうございます」




 アンの母親はそう言って跪こうとしたので、それを止める。




「お礼はもう十分いただきました。それより大きさはどうですか? ピッタリよりは、少し爪先に余裕があった方がいいんですが」




 どうやらサイズも大丈夫だったようだ。




「大丈夫そうですね! じゃあ、あとはアン! はい! これ履いてみて!」




「わぁ~~っ! 魔女さま! ありがとう!」




 特別にアンの分の靴も作ってあげた。先がマルくなったフラットシューズだ。これなら、脱いだり履いたりが簡単だろう。




「ケイ様、本当によろしいのでしょうか?」




「アンの優しい気持ちに対する、私からのささやかな贈り物です。気にしないで受け取って下さい」




 アンの母親がお礼を言っている中、アンが女性たちに囲まれる。




「まあ~! 可愛いらしい靴ね~!」「お花が付いているのね! よかったわね! アン!」「アン、ちょっと動かないで!」




 アンの周りに女性たちが集まり、またファッションチェックが始まった。 

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