私が聖女? いいえ、そもそも男です。
東雲うるま
プロローグ
目を覚ますとそこは真っ白な部屋だった。体を起こし座ったまま周りを見渡す。ライトのような物は見当たらないが何故か明るい。背中側の壁には白いドアがあった。
(ここは……)
全力で直前の出来事を思い出そうとする。
(え~と、彼女にフラれて……)
もう一度周りを見回すと目の前に白い狐が座っていた。こちらを窺いながら毛づくろいをしている。思わず二度見した後、そーっと後退る。どこから現れた? さっき見た時は、いなかったよね? そうか夢か、じゃあ、まだ眠いしもう少し寝よう! その内、目が覚めるだろうし。
横になろうとしていると誰かが声を上げる。
「――おい! 何をしとるんじゃ!」
驚いて声の方を向くと、そこには狐しかいなかった。まあ夢だしな、喋っても不思議じゃないかと思い直し答える。
「いや、もう少し寝ようかなって思って」
「ぬ! 大方、夢だとでも思っとるのだろうが、夢ではないぞ」
えっ! 狐の言葉に驚く。半信半疑だが一応確認の為に左の二の腕をツネる。痛っ……。
「待っているから、思い出してみよ」
あきれた感じでそう言うと、狐はまた毛づくろいを始めてしまった。
思い出せと言われても、疑問が多すぎて気が散る。夢じゃないなら何で狐が喋っているんだ? ここは何処だ? この部屋は何だ? それでも必死に思い出そうとする。確かあいつらと廃村に行って……と思ったその瞬間、二人の存在が切っ掛けになったのか、記憶が一気に頭の中へ流れ込んできた。
ああ、そうか、オレは……。
♦ ♦ ♦ ♦
三人の男が、トンネルのように長く連なる鳥居の前に立っていた。
またしてもフラれたオレを幼馴染の二人がなぐさめようと、気晴らしに肝試しに行こうと提案してきた。かなりヤバい心霊スポットがあると、ネットで有名になっていたらしい。調べたら車で二時間くらいの距離にある山中にあることが分かった。夏だし、みんなでドライブがてら行ってみようという事になって来たのが、この廃村の神社だった。
調べた限りだと昔は願い事をしながら通ると、その願いが叶うと有名だったらしい。叶った人がさらに鳥居を奉納して、どんどん増えていきトンネルのように連なったらしい。現在は過疎化で廃村になってしまい管理する者もいなくなり、鳥居も今や色褪せ、心霊スポットになってしまった。たしかに廃村に、何十もの鳥居が並んでいたら怖いな。
昔は通るだけでご利益のあった鳥居も、今は丑三つ時に決してしゃべらず、後ろを振り返らず、すべての鳥居を通り抜けられれば願いが叶い、もしも声を出したり振り返ると神隠しにあうと、かなりハードルが上がっている。まあネットに書かれていただけなのだが。
そんな場所に対向車が来たらすれ違えないであろう狭い山道を通り、暗闇の中どうにか辿り着いた。
タイちゃんがライトで鳥居を照らしながら呟く。
「昼間に来た時と全然違うな」
確かに昼間に神社の場所の確認で一度来た時と迫力が違う。
「絶対ふざけるのなしね」
オレがそう言うと、タイちゃんがニヤニヤしながら聞いてくる。
「ビビッてるの? ケイちゃん」
「ビビビビッてねーよ」
「ビが多いよ」
タケちゃんがすかさずツッコんでくる。その後もみんなで無駄話をして時間を潰す。ふと携帯電話に目をやったタイちゃんが聞いてくる。
「二時過ぎたよ。どうする? 一人ずつ行く?」
「「えっ!」」
俺だけじゃなく、タケちゃんも驚いたようだ。
「ふざけんなよ。あの時みたいに先にオレを行かせて、置いて行く気だろ」
――前回の肝試しの時に、こいつらが置いてけぼりにしようとした事は、オレは一生忘れないだろう。
「あははは! あの時は笑ったね~ケイちゃんボンネットに、しがみついてたよね」
「あの後、落ちて服がビリビリになってたし!」
「あんな暗い霊園に置いていかれそうになったら、誰だって飛び乗るわ!」
みんなで爆笑する。
「本当に置いて行くわけないじゃん! 服も二人で弁償しただろ」
タイちゃんはまだ笑ってる。
結局グダグダした話し合いで、一人ずつ行くことになったので順番を決める。
「――なんでだよ!」
ジャンケンの結果、オレ、タケちゃん、タイちゃんの順番に決まる。
「絶対振り向かせようとしたり、大声だしてビビらせたりするのなしね」
「しないよ。声だしたら神隠しにあっちゃうじゃん!」
嘘くさい顔で二人が頷き合っている。
「わかった! オレから行くよ」
オレはライトで先を照らす。鳥居の朱色が剥がれて所々黒くなっていて、まるで夜の闇に鳥居が浸食されているかのようで不安を感じさせる。しかし早く行かないと馬鹿にされる。意を決して最初の鳥居をくぐる。
「あっ! ヤバい!」「ケイちゃん! うしろ!」
二人が後ろで大きな声をあげる。思いっ切りビクッと肩を震わせたが、それを無視して進む。
「あっ! くそっ! 引っかからなかったか~」
絶対やってくるとは思っていたが……。心臓がバクバクしているのを、呼吸を整えて抑えようとする。悔しいが分かっていても今のは誰だってビックリするだろ! それに意外とこの鳥居のトンネルは長い。一人で歩いていると心が折れそうになる。今にも振り返ってみんなの所に行きたい。もちろんぶん殴りに……。もっと楽しいことを考えなければ。
ここ最近フラれたワケだが、その時に言われた言葉が『私よりも可愛いから、女としての自信がなくなった』だった。別れる為の言い訳に過ぎないのかもしれないが……。普通そんなことで別れるか? これは男らしくないと遠まわしに言っているのか? 楽しいこと考えようとしたのに、どうしてもフラれたことを思い出してしまう。
――そうだ! 願いが叶うって有名だったらしいし、願い事をしてみよう。
そうだな……。狭い部屋でいいんだけど一人になれる空間が欲しい。妹が転がり込んできて、実質二人暮らしで自分の時間がないんだよね。料理もうまくなりたいし、DIYとかで部屋の家具とか作ってみたいし、服も作ってみたいな。もの作りのセンスでもお願いすればいいか?
病気も嫌だしな……回復力? いや! いつまでも若々しいままで病気しない体とかか? もしくは魔法みたいに治す力とか……なんかファンタジーになってきちゃったな。もう魔法でいいんじゃないか? 回復したり物を作る魔法、技術? いや色んな魔法がいいか。あっ! 外国語もおぼえたいし……あと自分の部屋も欲しいです。お願いします。
もはや願い事の範疇を超え罰当たりなのだが、気がまぎれたのは確かなようだ。もうすぐ鳥居の終わりが見えて来る。丁度最後の鳥居をくぐった所で、後ろから強烈な光が射し辺りを照らした。急いで振り返ると体が光り始める。
「#%$○@▼&□」
誰かが何か言っている。それが理解できないまま光に包まれ、意識が遠のいた。
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