第39話 ワック派かワクド派か
「……羽月さんって、本当に根っから性格悪いですよね」
「そだな。嫌いになったか?」
「なりませんよ!むしろ、羽月さんのことをもっと知れて嬉しいです!」
「……変わってるな」
「それは羽月さんもです」
植坂ほど変わってるとは思わんが、まぁ変わってるということは認めよう。植坂より変では無いけど。
念押しに目を細めて植坂を見るが、どうやら植坂も俺と同じことを思っているらしく、目を細め返してくる。
「私たちの思考って、似てますね」
「すっげーやだ」
「嬉しいって言葉と間違えてますよ」
「間違えてねーよ。飯作らないなら、俺が作るぞ」
「作れるんですか!?」
「作れるわ。舐めてるのか」
さすがの俺でも作れるぞ?
一人暮らしやってたら自然と料理もできるようになる。
「作れないからいつもワクドに来てるのかと……」
「料理がめんどくさいから、ワックに行ってるんだよ」
「いつも私に会いに、ワクドに来てるのかと……」
「腹を満たしにワックに行ってるんだよ」
少し、お互いに声のトーンが低くなるのを感じる。
理由は明白だ。
ほんの小さなことだとは思う。たけど、週に何回も行くほどのワック好きの俺が許せると思うか?
「どうしてワック呼びなんですか?」
「なんでワクド呼びなんだ?」
そんな言葉を同時に発した俺と植坂。
植坂も、バイトをしている身としては何かしらのプライドがあるのだろう。
「私がワクドで働いていること、知ってますよね?」
「あー知ってるとも。ワックで働いていることを。そっちだって、俺がワックによく通うこと知ってるだろ?」
「知ってますよ?ワクドに通ってることぐらい」
「ワックな?」
「ワクドですよね?」
なるほど。良いのか悪いのか、俺と植坂にも地雷というものがあるらしい。
別に言うほどの地雷という訳では無いが、食い違いから仲が悪くなりそうだ。
「逆に、なんでワクドなんだ?朝ワックとか、夜ワックとか言うだろ」
「ワクドナルドを普通に略してみてください。ワクドですよ?」
「絶対言い難いだろ」
「ワックの方が絶対に言い難いです」
割と、植坂は自分のプライドを曲げないらしい。
明らかに普段とは違う声色だし、いつもぱちくりとしている目は細い。
「植坂とは分かり合えないな。だから、今後は俺の家に来ないってことでいいか?」
「やですよ?私は羽月さんと分かり合いたいです。だからずっと来ます」
「……この話題、逆手にとってるな?」
「羽月さんも同じじゃないですか……!」
くっそ。バレてたか。
かなりの妙案だと思ったんだが、同じようなことを考えてるやつには通用しないか。
悔し気に歯を食いしばる俺と植坂は最後にお互いを睨み合い……かと思えば、植坂はキッチンの方へ向かいだす。
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