第58話 相手が相手なら関節キスもいける

「これ、翔が作ったの?」

「俺はバナナを切ってヨーグルトをかけただけ。他は全部花梨さんだね」

「そうなんだ」


 俺と日彩はいただきますと手を合わせて言い、フォークとナイフでホットケーキを食べ始める。

 中はふわっふわで、何か隠し味を入れたのか、バターやはちみつがなくてもしっかりと味が付いている。

 ちなみにマジでうまい。カフェを開いてもいいのでは?と思うぐらい美味しい。


「美味しいです。花梨さん」

「あらありがと~」

「と言いますか、花梨さんは食べないんですか?」

「私は昼と夜だけで大丈夫な人だからねー」

「朝もちゃんと食べないと頭が回りませんよ?」

「んーなら、一口くれる?」

「いいっすよ」


 俺の前の席に座る花梨さんにフォークとナイフを渡してお皿を向ける。

「あーんして?」とか言うのかと思ったが、日彩がいる前ではしっかり自重しているらしい。

 日彩がいなくても自重はしてほしいが。


「……やっぱり、仲が良すぎる」


 花梨さんが美味しそうにホットケーキを頬張っているときだった。

 ナイフでホットケーキを切る日彩が訝し気な目を俺と花梨さんに向けてくる。


「そうか?」

「いつも通りよ~」


 先ほどと同じように言葉を返した俺と花梨さん。

 まぁ、仲が良くなった気はしないが、心の距離は近くなった気はする。

 理由としては昨夜話し合ったからなんだけれども。

 てか、日彩にも花梨さんと話してたって言ったはずなんだけど、もしかして忘れてるのか?


「絶対何かあったでしょ」

「昨日の夜話し合っただけだよ」

「それ夢の中の翔も言ってた」


 なるほど。ベッドの上で言ったことは夢のことだと勘違いしてるのか。

 花梨さんの匂いがするって言ってたから、夢じゃないことぐらいわかると思うが、案外気が付かないものなのか。


「それ一応現実だね」

「あ、そうなんだ。通りでお母さんの匂いがしたんだ」

「そうそう」


 全然気がついてはいたけど、気にしてなかっただけか。

 言葉を返しながら一口どころか、五口くらい食べた花梨さんからお皿とフォークたちを返され、花梨さんと同じフォークでホットケーキを口に入れる。


 あ、てかこれ間接キスだな。

 まぁ別にいいか。目の前の人はニッコニコで俺が同じフォークを使うことを喜んでるし、お隣さんはヨーグルトを食べるのに夢中で気が付いていない。

 口出しされないならまぁ別にいいだろう。相手が花梨さんだし。

 その後も色々と会話を楽しみ、食べ終わった食器を台所へと持って行く。

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