第52話 天然系勘違い

 でも、これだけは言っておきたい。


「花梨さんと同じ道を辿るなよ」

「え?」


 ちょうどドライヤーのスイッチを入れたからか、日彩には俺の言葉が届いておらず、首を傾げていた。


「もう男子を勘違いさせるようなことはするなよって言いたかっただけだ」

「え?今言うの?」

「そーだ」


 なぜ今言うのか分かっていないのか、日彩は未だに首を傾げたまま髪を乾かしている。


 なるほど。今回は天然という設定も入ってるんだな?

 いいだろう。俺は絶対に勘違いしないからな。


 天然系勘違いをさせている日彩を見た俺は、今日様子がおかしかったことにも合点がいき、心の中でそう誓う。

 そしてフンっともう騙されないぞと言わんばかりに日彩から顔を逸らした。





 どうしたんだろう?何か勘違いしてるのかな。


 いきなり翔に顔を背けられた私は、頭上にクエスチョンマークが見えるんじゃないかと思うぐらい、頭の中はクエスチョンマークだらけだった。

 だって、いきなり「男子を勘違いさせるようなことはするなよ」って言ってきたんだよ?

 私は別に、変なこと言ったつもりはないのだけれど……。けど、絶対まずい勘違いをされているような気がする。


「……」


 でも、どんなことを勘違いしているのか分からない今は、口を開くことができない。

 心当たりが一つもないから、何を勘違いしているのか絞ることもできないし、突き止めることなんてもっと無理なことだ。


 私はただ無言で髪を乾かし続けるのだけど、思考を回転させるのはやめなかった。

 翔が眠いと言うまでは。





 日彩が髪を乾かし続けて10分ぐらいが経った。

 正直俺の体は限界を迎えてる。要するに、超眠いということだ。


 ソファーに座りながら眠気に対抗するために体を揺らしていると、ちょうどそのタイミングで日彩がドライヤーを終えてコンセントを抜いた。


「超眠いです」


 ただ一言だけ日彩に向けて言う俺は、揺らしていた体もを止めて背もたれにぐでーっとだらける。


「それじゃあ部屋に行く?」

「行かないと言うわけがなかろう」

「だよね」


 コンセントを束ねた日彩はドライヤーを机の上に置き、ソファーから立ち上がる。

 それにつられるように俺も立ち上がり、リビングを後にした。


 日彩の部屋に行くのは人生何回目だっけ?

 ふと、日彩の後ろでそんなことを思った俺は中学の頃を思い出しながら指で数える。


 今からを含めたら……5回かな?5回行ってることになる。

 そう考えたら俺、かなり日彩の部屋に入ってるんだな。

 ……なるほど。やはり日彩は簡単に男を上げさせて勘違いをさせる常習犯というわけだな。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。けど、簡単に男を部屋に入れるのはやめとけよ」

「いきなりだね」

「いきなりか?」

「大分ね」


 今の行動と合っていることを言っている気がするんだが、いきなりか?日彩の驚いた顔にもいきなりだって書いてあるし。


 日彩の部屋の前でそんな会話をしたのだけれど、簡単に部屋に男を入れるのはやめとけという言葉が頭に入ってなかったのか、簡単に扉を開けて俺を部屋へと案内する。


「まぁそんなことはよくて、もうベッドで寝ていいからね。私も寝るから」

「……バラバラに寝るんじゃなくて、一緒に寝る感じか?」

「当たり前でしょー?お泊りと言ったら寝るのが醍醐味じゃない」

「別にそんなことはないと思うが……」

「そんなことがあるのー」


 どことなく日彩のテンションが上がっている気がするが、俺と寝るのが嬉しいのだろうか。

 否、俺をからかうのが楽しいのだろう。

 けどまぁ、今は寝るために騙され続けてやるよ。


 まず日彩が先にベッドの上に寝転がり、トントンと俺を誘うようにベッドを叩いてくる。


「ほら、おいで?」

「誘ってんのかよ……」

「ん?誘ってるよ?」

「意味合いが少し違う……!けど同じか……!!」


 純粋無垢なのを忘れていた俺は少し頭を悩ませながらも、眠気には逆らえないので日彩の隣で寝転ぶ。

 今気が付いたが、女子の匂いが凄いな。男子の部屋と違うのは分かるが、どのようにしたらこんな女子らしい匂いが凄くなるのか未だにわからん。

 女子の不思議ってやつか?


「なんでそっち向くの?」

「逆に目を合わせて寝ると思ったのか?」

「思った」

「……そか。残念だったな」


 重たい瞼を閉ざし、本当にゼロ距離なのではと思うぐらいすぐ後ろにいる日彩に言葉を返し続ける。

 寝れそうだな。後ろのやつを意識したら瞼が開くけど、意識せず睡魔に身を任せれば気絶するように寝れるぞ。


「私が翔の前に回り込んでもダメ?」

「ダメだ」

「けち」

「カップルみたいなことを願うなよ」

「……分かった」


 なんてことを渋々言う日彩はリモコンで電気を消し、完全にお休みモードへと部屋全体が包まれる。

 電気も消したらこっちのものだ。絶対に寝れる自信がある。

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