第39話 お土産
お土産屋に入り、まず初めに目に入ったのは巨大なアザラシ人形だった。
150㎝はある人形は棚の一番上に飾られており、持ち帰るのが大変そうだという感想しか出なかった。あと高い。
「翔は何か欲しいのあるー?」
「今必要なものは特にないけど……何か記念になるような物ならなんでもいいかな」
「記念ね。記念記念……」
日彩はジッと色んな棚を見て回り、どんな物が記念にふさわしいのか見極めてくれている。
俺もそんな日彩の後ろにつき、なにがあるのか見て回る。
「あっ、これいいじゃん」
一つのキーホルダーを手に取って俺に見せながら言ってくる。
香川と水族館だからなのか、カワウソがうどんに抱き付いているキーホルダーだった。
見た目もすごく可愛く、女子人気やお土産人気が凄まじいのか、周りと比べたら品数が少ない。
「めっちゃいいなそれ」
「いいよね。翔のはこれ決定ね」
「おう。ありがとね」
素直にお礼を言い、俺も日彩と同じキーホルダーを棚から取って少し頭を悩ませる。
俺もこれが良いと思ったんだが、同じやつあげたらペアルックみたいで気持ち悪いって思われそうだな……。
だからと言って、別のものを選ぼうとすると筆記用具とかぬいぐるみになるしな。
「どうしたの?私にも何か買ってくれる予定だった?」
「そりゃね。日彩は何がいいとかある?」
こういう時は本人に直接聞くのが手っ取り早いか。
お店の前でいきなり、サプラーイズって言いながら渡すのもありかもしれないが、反応が薄かったらと考えたら怖い。
「んーその手に持ってるやつじゃダメなの?」
俺の手のひらをジッと見つめてきたかと思えば、キーホルダーを指さしてそう問いかけて来る。
日彩が良いというなら買うんだけど、振ったやつとペアルックする羽目になるぞ?
「同じものは嫌かなーと」
「全然嫌じゃないよ?」
「……ペアルックになるぞ?」
「気にしない気にしない」
「ならいいんだけど」
日彩が案外乗り気で「一緒に学校のカバンにつけていく?」なんて言い出す。
当然そんなことしたら日彩のことを好きな奴が激怒して、俺のことをボコボコにするかもしれない。
そうなったら嫌なので、丁重にお断りして俺はレジへと向かった。
「私は付けていいと思うのに……」
「やだよ。仮にも振った相手と同じものを付けていくんだぞ?嫌だろ」
「それを込みしていいって言ってるのに……!」
「そか?でもやらんぞ」
レジでそれぞれがお会計するため、一旦手を放した俺は空いたレジに向かった。
プレゼント用に包みますか?って聞かれたが、隣のレジで日彩が断っているのを見て、俺も丁重にお断りした。
そして日彩のレジが終わるのを待ち、出口の看板に向かう途中でキーホルダーを交換する。
一回ごちゃ混ぜにすると絶対にわからないなこれ。
こういう面でも考えると、同じものを買ったのは、流石にまずかったか?
「同じだね」
「そうだな」
いや、全然まずくなさそうだな。
嬉しそうに微笑む植坂を前に、俺も思わず頬が緩んでしまう。
プレゼントを渡してこんな喜ばれると、渡してるこっちもつい嬉しくなるのは必然だろ?
なんやかんやで、心の底のどこかで俺も、日彩と同じものを持てて嬉しいと思ってるし。
……なんか、こう言うと未練がまだあるみたいな感じに捉えられるな。
――じゃあ、この嬉しさはなんなんだ?
思わず疑問が湧いてくる。
だけど、日彩に見せられたスマホの時計を見て、疑問は残ってはいるものの、現実へと引き戻される。
「もう五時だね」
「時間ってあっという間だな」
「…………好きな人といるから?」
「ん?」
「楽しいから早いのかな?」
「あーかもなー」
明らかに言葉の数だとか口の動き方とかが違った気がするけど、気のせいか?
まぁ聞こえてないから真相はわからんが、楽しいから時の流れが速いというのは、ほんとその通りだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます