第37話 哀れみの目
なんてことを考えながら、日彩が俺のスマホを操作しているのを見守る。
けど、スマホの操作に慣れていないのか、少し時間がかかりそうだったので、近くのベンチに移動した。
「えーっと、うん。多分これでできたかな?」
「もしかしなくてもだけど、機械類苦手?」
「すっごく苦手」
「……だから時間かかってたのか」
念のため、本当に削除されているかどうかを確認するために、フォルダのアルバムを見る。
うん、確かに消されてるな。
どこを見ても、今撮った日彩の写真はない。
「ちゃんと消せてる?」
「消せてるよ。ありがとね」
「……ありがとうってことは、元々消すつもりだったんだ」
「そりゃね。変な男に自分の写真持たれてるの嫌だろ?」
「翔は変な男じゃない」
「俺は変な男じゃないか。なら、彼氏でもないやつに持たれたら嫌だろ?」
「…………まぁね」
なんだ?一瞬押し黙ったりして。
俺の質問が難しかった?いやそんなわけないよな。
なぜか悔しそうに見上げてくる日彩を横目に、ペンギンの隣の水槽にいる、アザラシに目を向けた。
地面の上であおむけに寝転がり、昼寝しているあざらしや、子供が水槽に手を当てて、それを興味ありげに追いかけているアザラシもいる。
ペンギンとはまた別の可愛さがあって、思わず見入ってしまう。
けど、隣から引っ張られる手によって現実に戻され、名残惜しいがアザラシから日彩に目を向けなおした。
「翔って動物好きなの?」
「好きだね。動物アレルギーだけど」
「え、そうなんだ」
「可哀想だろ?」
「うん。可哀想」
「お、おう」
こんな本気で可哀想だと思っているような目を向けられるのは人生で初めてだ……。
なんなら、事故した時よりもひどいのでは?
いやまぁ、あの時は哀れみの目よりも泣いてくれた方が落ち着いたから、いいんだけどさ。だけど、こんなことで人生の半分を損した人を見るような目を向けられるとは……。
「絶対人生の半分損してるよ?」
……全然向けられてたわ。
「そんなにか?」
「そんなによ。動物を触れるという幸せさを感じられないのは、流石に可哀想」
「……まじか」
日彩も動物好きだからこそこんな言葉が出ているんだろう。
にしても過剰すぎる気もするけど。
「まぁそんな話は置いといて、次行くぞー」
「じゃあこの続きは家でね」
「おけおけ」
まだ続きあるのか?なんてことも思ったが、外にある水遊ゾーンから屋内に入り、冷房の冷たさが体に染みて、そんなことなんて一瞬で忘れてしまった。
屋内にはさまざまなエリアがあり、香川と言えばの瀬戸内海エリアもある。
子供が綺麗な魚を見てはしゃぎ、カップルも綺麗だねって言い合う。
うん、場違いではないよな?
ただの友達?がなぞに手を繋いでこんな空気の中に入るのは少し心もとないぞ?
もし、日彩がもっと小さくて、俺がもう少しおじさんなら孫ときているおじいちゃんみたいな雰囲気が作れたはずだ。
今、隣で綺麗な魚を見て楽しそうに笑う日彩を見れば、普通に行けるという確信ができる。
「ねぇ見て見て!この魚赤く光ってる!」
「ほんとだなぁ」
「こっちも見て!青い魚と黄色い魚もいる!」
「そうだなぁ」
うーん、いつもからは全く想像がつかない日彩の姿。とっても微笑ましいな。
こんな孫がいれば、おじいちゃんも喜ぶだろう。
俺だったら絶対喜ぶと思う。一緒にいるだけで楽しいからな。
「見るばかりで写真は撮らなくていいのかー?」
相変わらず目をキラキラとさせる日彩にそう問いかける。
ペンギンエリアの時はすっごい写真撮ってたから、てっきりここでもとるのかと思った。
だから、そう聞いたんだけど……。
「ここ暗いからツーショットにはふさわしくなくない?」
「……ツーショット?」
まさかとは思うけど、魚を撮る話じゃなくて、俺とのツーショットを撮るのと間違えてるんじゃないか?
いや、絶対間違えてるな。
ツーショットという言葉が出た時点で話が嚙み合ってないわ。
「俺が言いたかったのは魚の写真を撮らないのか―?っていうことなんだけど」
「ちゃんと魚の写真も撮るよ?でも、翔が写真撮らないのかって言うから」
「あーなるほど。俺が悪いのかごめん」
なんて日常的会話をする俺たちは、長い時間をかけながら次々と、深海エリア、太平洋エリア、瀬戸内海エリアと回っていく。
その中でも一番印象に残ってるのは、それぞれのエリアの中心に位置する神無月の景という場所だ。
大きい円柱の内に沿ってベンチが並べられ、そこに座って上を見上げればアカシュモクザメが泳ぐ様子を見れる、というスタイルの水槽。
俺たちが行ったときは緑色のライトで壁が照らされていたけど、日彩が前に行ったときは紫で照らされていたらしい。
素直な感想にして、まじですごい。
他の水槽もそうだが、とにかくライトがうまく照らされていて、魚がよく目立つ色合いを立てている。
確かに、日彩がさっき言ってた通りツーショットにはあまりおススメしないが、魚を撮る分には十分すぎるほどの鮮やかさだった。
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