第29話 日曜日の約束

 別にどうといった感情はないんだけど、女子慣れしてないからかな?なんか、気恥ずかしい。


「あ、目逸らした」

「じっと見るなよ……なんか、恥ずいわ」

「ふーん?私に見られたら、恥ずかしいんだ」

「いや多分、女子慣れしてないからだな」

「まぁ今は、そういうことにしといて上げる」

「ありがとう?」


 どことなく上から目線な日彩は顔がほころんでいた。

 なにか嬉しいことがあったのだろうか?

 でも、さっきまで泣いてたしな……分からん。


「それじゃあ、俺そろそろ帰りますね」


 少し日彩と花梨さんと話し、花梨さんが注いでくれたお茶がなくなり、いいころ合いだったので俺はそう口にした。

 だけど、返ってきたのは予想とは違う言葉だった。


「岩瀬君、今日泊まって行けばー?」

「え」


 いきなりの言葉に、思わず呆けた声が漏れてしまう。

 なぜにそうなる?

 いやまぁ、俺と日彩が付き合っているという認識にあるのなら、そうなるのか?

 でもそんないきなり言われてもな……。


「今日は帰りますよ。いきなりですし」

「大丈夫大丈夫。寝る部屋は日彩と同じでいいから」

「……一応、寝る場所の話はしてないんですけどね?」

「今日は夜も遅いし、泊まっていいのよ?」

「いえ、ほんと今日は大丈夫です」

「えー。日彩もどうにか言ってあげてよー」


 花梨さんは相当俺のことを泊めたいらしく、日彩にまでもお願いして俺を引き留めようとしてくる。

 別に泊まる分にはいいのだ。食費も浮くし、家の電気も使わなくていいし、水道代も浮く。

 ただ、今日はいきなりすぎた。あと、日彩と同じ部屋で寝ろと言われてるもんだし。


「まぁまぁ。今日はって言ってることだし、別の日に頼んでみたら?今日は疲れてるだろうし」

「日彩までそんなこと言っちゃうのー?」


 我が娘に自分のいい雰囲気にさせる作戦を否定されたことが不満なのか、花梨さんは頬を膨らませて……拗ねてるのかな?

 少し可愛すぎて、拗ねているのか甘えようとしてるのかあまり区別がつかなかった。

 でも、ナイスだ日彩。よく俺のことを分かっている。

 流石は元俺の好きな人。


「まぁそういうことなんで、また別の日にお願いします」

「じゃあ明日は!?」

「……明々後日の、日曜日はどうですか?」

「明日はダメなの?」

「バイトがあるので。日曜日に一応休み入れてるんで、その日ならいけますよ」

「分かったわ!その日はご馳走にしましょうね!」

「ありがとうございます」


 一応父さんとも約束したし、週休1日制で毎週日曜日を休みにしようとしている。

 まぁ別にバイトがある日でも泊まることはできるんだけど、なぜ日曜に泊まろうと思っているのかというと。


「日彩って日曜の昼から空いてる?」

「え?空いてるけど……」

「おっ、なら遊びに行こうぜ」

「私と?」

「一応、主語に日彩って付けているはずなんだけどな……?」


 俺に誘われたことに相当驚いているのか、目を丸くしてぱちくりと瞬きをしている。

 俺だって遊びに誘うぐらいあるし、俺を救ってくれた恩返しをしたい。

 あとは、父さんに言われたことも解決したいし。


「私は、全然いけるよ?」

「よし、なら12時30分にムーンポートの駅前集合でいいか?」

「もしかして、私だけ?」

「だな」

「ほんと!?」

「おう、ほんとだ」


 ここまで喜んでくれるとは……まさか、俺の財布で色々買おうってたくらみじゃなかろうな?

 まぁ別にいいけどさ。俺の命を救ってくれたんだし。

 隣で静かに喜ぶ日彩を目尻に、俺は立ち上がりながら口を開く。


「それじゃあ、俺はこのあたりで帰りますね」

「はーい。じゃあ、また日曜日においでね」

「ありがとうございます」


 花梨さんは俺が日曜日に泊まりくることで機嫌が直ったらしく、膨らんでいた頬はいつの間にか元に戻っていた。


「日彩も、また日曜日な」

「うん!」


 目元はずっと赤いけれど、どれだけ嬉しいのかはこの笑顔を見ればすぐに分かった。

 だけど、何にそんな嬉しさを感じているのかは分からない。

 まぁでもいっか。嬉しいのなら、それに越したことはないよな。


 曖昧のままで終わらせた俺は玄関で靴を履き、玄関まで見送ってくれた二人にもう一度お礼を言って夢咲家を後にする。

 今日は大分疲れた。これはいい睡眠ができそうだな?


 なんてことを考えながら、完全に暗くなった道を一人で歩く。

 あ、そういえばなんで玄関の扉が開いたのか、分かってないよな?


 軽く説明すると、スマホを渡すために、インターホンを鳴らし「鍵開いてると思うから入っていいよー」と花梨さんに言われ、扉を開けた感じだ。


 流石に鍵は閉めた方がいいのでは?と思ったし、言おうとも思っていたのだが、扉を開ければ泣いている日彩が目に入り、思っていたことはすべて飛んでしまった。


 とまぁ、こんな感じだ。

 あの時は本当に驚いた。俺と別れてからずっとあそこにいたってことだろ?

 何があったかは知らないけど、俺が何かをやったことは確実。

 それを含め、日曜日は日彩に何かしらの恩返しをしよう。

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