第26話 自分のせい

 今の翔が私のことを受け入れるわけないし、それにさっき……。

 ――と、いきなり私は顔を伏せてしまい、先ほどまでの勢いはなくなってしまった。


 そうじゃん。翔は私との可能性をゼロと見てるじゃん。

 あーあ。無理だ。もう無理じゃん。私に可能性なんてないじゃん……。


 思わず涙が込み上げてきそうになってしまう。

 昨日も泣いたのに、今日も泣いてしまうと明日は目が腫れそうだから、あまり泣きたくない。でも、こんな失恋の仕方、泣いちゃうじゃん……。


「おーい。どしたー?家着いたぞー?」

「なんでもない。ありがとうね、送ってくれて」

「おう?いいけど、ほんとどうしたんだ?」

「翔の気持ちが分かった気がするよ。バイバイ、また明日」

「……?また明日な?」


 翔は私の言葉に気が付いていないようで、最後の最後まで首を傾げていた。

 私は最後の力を振り絞って顔を上げ、右手で手を振る。

 中学の頃、翔が私と一緒に帰った時、家の前でしていたように。



 翔が見えなくなったのを確認して、扉を閉める。

 翔はこんなにもつらい思いをしてたんだ。

 あんな思わせぶりなことしてたら、私も翔のことが好きだって思うよね。でも、実際は好きだった。


 ただ、自分の気持ちに気づくのが遅かっただけで、本当は好きだった……のに!

 自分への怒りを抑えるために、私は扉の前に座り込み、膝を丸めて顔を埋めた。


「もうやだよ……。なんで中学の頃の私は、あそこで泣いちゃったの?全部私のせいじゃん……」


 自分がこんなに後悔しているのも、泣きそうになっているのも、全部私のせい。

 これが初恋ということもあるのだろうけど、この後悔は絶対に忘れられない物になってしまう。


 ……誰かに相談したい。こういう時は、誰に相談してたっけ。


「……翔じゃんか。なんで、仲のいい友達を作らなかったのぉ……!」


 恋愛相談は誰にもしてこなかった……というか、これが初恋だから出来なかったのだけど、それ以外の相談事は全部翔にしていた。

 家族のことも、進路のことも、友達のことも自分のことも。全部全部翔に相談して、何でも聞いてくれて、ほとんどのことを解決してくれた。


 私にとっての……安定剤でもあるのかな?

 心が乱れ始めたら、そばにいた翔がすぐに気づいてくれて、相談に乗ってくれる。


「そんな素敵な男を……私が……!」


 自然と涙が頬をつたい、太ももに落ちる。

 その粒は次第に大きくなり、量も増し始め、自分ではどうにも出来ないほどに溢れ始めてしまう。


 全部私のせいなのに、全部自分のせいなのに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る