第24話 ほっぺを触ってくる元好きな人

 いつまで触っているんだ?

 一回目は何かが顔に当たっただけだと思ったけど、まさか日彩が俺の頬を触っているとはな……。


 俺の体は案外敏感で、寝ているときでも体に何かが当たると目が覚める。

 本当に深い睡眠に入っているときは起きないけど、今日はソファーの上で寝ているのだから、そこまで深くはない。


 そして今、俺は日彩にほっぺを無限に触られ続けている。

 正直、このまま起きてなんか言ってやればいいのだけれど、昨日俺も触っていたからブーメランが返ってきそうで怖い。


 ……けど、この場で日彩を止めれるのは俺だけか。昨日、俺が頬を触っていた時は起きていないことを願って――

 ――まだ眠気が残る重い体をゆっくりと持ち上げ、ずっと俺の頬を突いていた日彩の手を掴んで目を見る。


「おはよう」

「あ、えっと……おはよう」

「なにか言うことある?」

「えーっと、おはよう?」

「ちげーよ。この手についてだよ」


 完全に力が抜けきっている日彩の手を持ち上げ、ひらひらと振る。

 言い訳を考えてはいなかったらしく、目が左右に泳ぎ、相当焦っている……ようにも見えるけど、日彩の場合は何か、気を紛らわす物を見つけようとしているのだろう。


「あ、えっと……あ!テレビつけたまま寝てたよ!」


 残った左手でテレビを指さしてそう言ってくる。

 うん、日彩のごまかし方は何一つ変わっていないようだな。

 これが良いのか悪いのかは置いといて、


「この手はなーに?」


 テレビなど見向きもせず、俺はもう一度日彩の右手をひらひらと振る。


「それは……その、虫がいたからとってあげただけだよ?」

「にしては、随分と長かったね」

「虫がしぶとかったから……」

「そうかそうか。で、なんで頬っぺた触ってたの?」

「こんなのごまかせられないじゃん……!」


 とうとう言う気になったのか、それとも開き直ったのか、日彩は悔しそうに言葉を口にする。


 いやまぁ、俺もしてたからあまり強い口では言えないんだけど、俺が気になるのは好きでもないやつの頬を、なんで触るんだ?ってことだな。


「理由を述べてみな?」

「なんというか……あれじゃん。目の前に可愛い寝顔があったら、ほっぺた触りたくなっちゃうじゃん!」

「俺が可愛い……?」

「そう!可愛かった!だから触っちゃった!だから翔が悪い!」

「……なるほど」


 言う気になったのではなく、ただの開き直りだ、これは。

 それも俺が悪いと言ってくるタイプの開き直りだ。非常にめんどくさいタイプだ。


 日彩が暴露してくれたので、とりあえず日彩の右手を解放して俺は体の後ろに手をつく。


「だから!ごめん!」


 手を解放した途端、ソファーの背もたれに手を付けて、立ったまま土下座するように頭を下げてくる。


「いやまぁ、別に怒ってはないけど、あんな触られたら誰でも起きるぞ?」


 下げたけど、俺が怒ってないと知るとすぐに頭を上げ、少ししょんぼりしながら口を開いてくる。

 非常に切り替えが早くていいことだ。


「わかってた……けど、欲が勝っちゃって……」

「欲?ていうか、俺が聞きたいのはそこじゃないのよ。なんで、好きじゃない人のほっぺたを触るんだ?」

「え?可愛いからって理由じゃダメ?」

「……なるほど、それが最大の理由だったか」


 少し動揺してるようにも見えるけど、確かにこれぐらいしか頬を触る理由はないよな。

 それに、なんかちょっと触ってくれたのは気分が良かったし、今日のところは許すか。


「許してくれる……?」

「許す。けど、次からは気を付けろよー?」

「分かった。ほんとごめんね?」

「いいよいいよ」


 俺もやってるから、これ以上責める気は本当にない。

 というか、これ以上日彩を攻めたら、俺の心も痛めそうだからやめておく。

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