元好きな人にダメ元で晩御飯を作ってくれと頼んだら案外あっさり受け入れてくれた

せにな

第1話 プロローグ

しょう、これ盛り付けてくれない?」

「OKOK」

「返事は一回!」

「……OK」


 こんなしょうもないことで怒られる男――岩瀬いわせ翔こと俺は、予め机の上に用意しておいたお皿に、もう一つの菜箸を取って盛り付ける。


 そして、俺の後ろにいるエプロン姿で、そそくさとフライパンを振っている綺麗な黒髪をポニーテールに結んでいる女、もとい同じクラスの女子――夢咲日彩ゆめさきひいろは最近俺の家に晩御飯を作りに来てくれるようになった、元俺の好きな人だ。

 そう、元好きな人なのだ。


「……盛り付けもせずに、私の顔見てどうしたの?」

「前髪切ったか?」

「……よく気づいたね」

「なぜ気づいてあげたのに、賞賛とか驚きの眼差しじゃなくてジト目なんだよ。気づいてあげた俺を褒めろよ!」

「別に気づいて欲しいだなんて言ってないし」


 ジト目を向けたと思ったらそっぽ向きやがったぞこいつ。

 まぁでも、好きでもない人に、数ミリの変化に気づいてもらったところで、なんとも思わないか。いや、そっぽを向いたのはフライパンを握ってるからか?

 そう思うことにしよう。ポジティブポジティブ。


「ほんと……そういうところ」

「ん?なんか言ったか?」

「気のせい。次があるから早く盛り付けて」

「おーけー」


 何か言った気がしたけど、俺の空耳か?

 まぁ気にしたところで早く盛り付けろーって怒ってくるだろうし、深く掘り下げなくていいか。


 あーそういえば、なぜ日彩が俺の家に晩御飯を作りに来てくれるようになったのか話してなかったな。

 あれはとある夏休み……といっても、数日前の話だが――

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