人たるもの、そうでないもの

1.連絡船【デスティニー号】

 


「あの、ほんとうにごめんなさい……」


 あれから部屋に戻って彼女たちの回復を持ち、数分ほど。意識を取り戻した少女は開口一番にそう言った。


 頭を下げる幼い謎の銀髪少女……長い髪がその表情を隠すも、落ち込んでいることは理解できる。


「うーん。どこかでみた事あるです?」


 しっかり【キュア水】を持って帰ったおかげか復活したスイちゃん。首を傾げて彼女たちを見回している。


 どこかで……そういえば、船に乗る前に見覚えのある誰かに見られていた感じがしていた。もしかして、彼女たちがそうなのだろうか?


「大丈夫ですよ。ここにいる人たちはあなたを通報したりしませんから」


 うんうん悩んでいる私たちを尻目にミカンさんが言う。

 彼女がにこりと笑みを見せると、少女も安心した様子を見せた。子供の扱いに長けているのだな……。


「とりあえずお名前を教えてもらっていいですか?」


「……フィンです。こっちはペットのちゃっぴーです」


「あ」


 彼女たちの名前を聞いてやっと思い出した! 幼い少女のフィン。この子は確かスライズにいた子だ。

 それもまさしく、私たちが受けているクエスト……その依頼主の妹。つまり、この子は。


「え、NPCってことですか……!?」


「だから見たことあるですか。びっくりです」


 事情を話すと二人は驚いた。


 無理もない。彼女は病気を患っていて、そのために入手困難な素材で作った薬が必要なほどだ。しかしミカンさんは別の個所に戸惑っているようだ。


「どうしてここにスイラズのNPCさんがいるんです?」


「どうしてって、彼女も船に乗りたかったのだろう?」


「え、いや、だってこの子……。そんな行動するNPCなんて聞いたことが」


「彼女も人だ。なにか用があったりその時の気分で外出する事はあるだろう」


「……ひと、ですか」


 どうにも腑に落ちないらしいミカンさん。しかし私にとってはプレイヤーもNPCも等しく人であり変わらない。


「隠れていたのは何か理由があったのだろう? よければ話してくれないか」


「は、はい」


 謎の少女――改めフィンはまだおっかなびっくりといった様子で、それでも勇気を出して事情を語り始めた。

 


 彼女は普通の薬では治せない重い病気に掛かっていること。


 いつも自分を心配して世話してくれているお兄さんにお礼がしたかったこと。


 そのためオリシア大陸に咲くという綺麗な花を持ち帰り、お兄さんを喜ばせたかったこと。


 反対されるに決まっているのでお兄さんに言えず、お金も持っていないため人の荷物に紛れて乗船したこと……。



 全て話し終える頃には落ち着いたのか、ペットだという謎のもちもちうさぎを静かに撫でていた。ちゃっぴーといったか。気持ちよさそうに目を細め、随分と懐いている様子だ。


 なるほど、優しい子なんだな……。


「……フィンは船長さんにあやまってかえります。みなさんにも。迷惑かけてごめんなさい」


 私たちは顔を見合わせた。

 無賃乗車がこの世界でどれだけ重い罪かは知らないが『海に投げ飛ばされるかも』といった話を私は聞いている。


 それにどうにかして、この優しい少女のささやかな願いを叶えてあげたかった。


「君がよければ一緒にこないか?」


「え?」


 少女は目を丸くする。

 合わせるようにスイちゃんたちも口を開く。


「です。もともとあなたの為にやってることですから」


「そう……ですね。お二人がそう言うなら」


「い、いいんですか? フィン、こんなにあやしいのに……」


 そう言っておどおどする少女の頭に手をやる。


 女の子の頭を軽率に撫でる行為はどうかと思うが……しかし少女は目を細め、ほうと息をついて落ち着いた。


 私にも妹がいた。ちょうどこの子くらいの時、よくこうしていたような気がする。だからというのもあるかもしれないが……。


「君を預かるからには必ず無事で帰す。だから私を頼ってくれないか」


「……ありがとう、ございます。その、えっと、よろしくおねがいしますっ」


 かくして私たちのパーティに可愛らしい新たな仲間が加わった。


 ……緊張も解けて和やかな雰囲気になるころ、船が大きな汽笛を上げる。どうやらそろそろ到着するようだ。


 まだ見ぬ新大陸、オリシア。ここで私たちに待ち受けている出来事は果たしてどんなものだろう?


 期待を胸にいざ、その一歩を踏み出すのだった。

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