第5話

「りいちゃん、部活やめたって、ほんと?」

「うん」

「何で?」

「向いてなかったし、しんどかったから」

「確かに、全然りいちゃん浮いてたもんねえ」


 キャハハ。

 真帆はスマホをいじりながら笑った。


「あっならさあ、りいちゃん放課後ヒマになっちゃうね?」

「何で?」


 聞いたものの、予想は出来ていた。


「は? まじで言ってんの」


 真帆は不機嫌になった。


「うん」

「あーそっか。ゲームでもしてるんだ? りいちゃんオタクだもんね」

「いや、ゲームもしない。あのさ、真帆ちゃん」

「何?」


 すいすい、真帆の指はスマホに夢中だ。


「私、部活やめるじゃん。真帆ちゃんは部活入ってるじゃん。だから、これから一緒には帰れないと思う。ごめん」

「……は?」


 真帆は、顔を上げた。不愉快、そんな顔だった。


「何言ってんの?」

「ごめん。でも、さすがに六時までは長いから、待ってられない」

「ゲームでもしてればいいじゃん。それか勉強とかさあ」

「ごめん。あと、LINEとか、電話もそんなにもう出来ないと思う」

「は?」

「勉強、もっと頑張りたいの」


 私は真帆の目を見て頼んだ。


「は? 何それ」


 真帆は、スマホを握りしめた。


「りいちゃん、さっきから自分の都合ばっかさあ」

「それはごめん」

「てゆーか何? なんか変じゃない? いきなり何キャラ? 何様なの?」

「ごめん」

「うるっさいなあ」


 真帆は向かいの私の椅子を蹴った。嘘みたいに音が響いた。

 真帆は冷たい目で私を見ていた。


「私のことなんてどうでもいいんじゃん」

「どうでもよくないよ」

「いや、いいよ嘘つかなくて。てゆーかさ、ほんと、りいちゃんそういうとこあるよね。人の気持ちわかんないってゆーか、空気よめなすぎってゆーかさ……そんなんだから、友達出来ないし、皆に嫌われてるんだよ?」


 真帆は、私を睨みつける。私は、ぐっとお腹に力をいれる。


「私だから、そーゆーの許してあげてるけど……ほんと、気を付けた方がいいよ?」

「そんな風に、言われたくない」

「は?」


 真帆の顔が紅潮した。この流れで、私が言い返したことはなかったからだ。机を指先で、トントントンと激しく突く。


「まじないわ。空気読めなくて、人のこと、苛々させて……その上、えらそうになったら、本当に、いいとこなしだから」


 真帆は、大きく目をむくと、それからふうと息をつき、そっぽを向いた。


「もういいよ。どっかいけば」


 真帆はまた、スマホをいじり出した。話しかけるなオーラが出ている。

 こうなると、もうどうにもならない。


「真帆ちゃん」


 無視だった。

 わかっていた。私がどんなに慌てて、謝っても、ずっと、気が済むまで――あるいは忘れるまで、真帆はそうしていた。


「ごめん」


 私は席を立った。

 そして、自分の席に戻った。

 真帆に


「悪いとこ直すから、嫌わないで」


 と、もう言わない。

 友達、ではあったと思う。

 友達ができない私に、声をかけてくれた真帆のこと、ずっと感謝してた。

 けれど、夜通しLINEしたり、電話したりするのは、正直苦痛だった。よくわからない理由で怒られて、無視されて、人格否定されるのもつらかった。

 真帆以外に友達はいなかった。これから、どうしたらいいか、わからない。

 でも、そんな気持ちしかわかない友情なんだ。

 だから……これでいいんだ。

 私は、廊下に出た。

 風が、さあっと吹き抜けて、気持ちよかった。


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