亡者の夢は、砂中に眠る

小槻みしろ/白崎ぼたん

第1話

 私を殺しておくれ、

 どうかの手で、終わらせておくれ。

 

 それが、最期の願いでございました。

 

 空、砂、空、砂――見渡す限りの空と砂である。他には何もない。

 吹く風が砂を舞わせ、二分された世界を混ぜ返していた。

 水平線の向こう、砂上を行く影が二つ。

 一人は、槍を抱えており、年のころは十三、四と言ったところか――精悍な顔立ちに幼さが残る少年であった。

 もう一人は、少年から、青年にさしかかるといったところ……女性と見まごう顔立ちの男で、少年の後ろをつかず離れず歩いている。

 彼らは、さる地に戦で遠征に来ていた。

 

「敵はどこへ隠れているのであろう」

「奸術の類かもしれませぬな。エルガ卿、気をつけられませ」

 

 エルガ卿と呼ばれた少年は、うむと頷いた。

 彼は、年若ながら、戦場で獅子奮迅の働きを見せた。十も二十も上の男たちをうち倒し、倒し――命じられるままに、追撃に向かった。

 までは、よかったのだが……。

 

「けしからんな。して、ジアンよ。ここはどこだ?」

「さて。見事にはぐれましたな」

 

 いささか、興がのりすぎた。一人突撃したために、どこか変なところに辿り着いたらしい。

 先まで、自分達が走っていたは赤土の上であったはずだが、ある一点を越えた瞬間、砂漠へと景色が転じたのだ。

 

(よからぬ時空を超えたのかもしれぬ)

 

 ジアンと呼ばれた青年は、眉をひそめた。

 魔生シャイダールの類か……術式イクスペリか……。どちらにせよ、警戒しておいて悪いことはない。

 不幸中の幸いは、主だけ、ここに入らなかったことだ。主の俊足についていける自分でよかったと独り言ちる。

 

「何と、それはいかんな」

 

 敵将の首をとらえるどころか、捉えられてしまっては、騎士の名折れである。エルガは顔全体で、困った顔をした。

 

「起こってしまったものは致し方ありません。どう出るかを探りましょう」

「そうだな!」

 

 エルガはころりと切り替えて笑った。槍をひゅんと振り回すと、石突で砂を突く。槍は砂の内にめり込んだ。

 

「そうと決まれば、腹ごしらえだ! ジアンよ、俺は腹が空いた」

「かしこまりました。主」

 

 ジアンは両手を合わせ、礼の形をとった。


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