第2話

 みどり公園をゆるやかに左に曲がっていった突き当たりに、僕の住むマンションはあった。むき出しのコンクリートの外観をして、ドアだけが暗い緑色だった。


「おかえり、しん君」


 マンションのドアを開けると、いつも彼女はそう言って出迎えてくれた。黒と紫のボーダーの長袖のTシャツとショートパンツの上に、赤のエプロンをつけていた。


「彼女にエプロンをつけて出迎えてもらいたい」


 そんな願望を、何の気なしに、彼女に漏らしたことがきっかけだった。

 願望と言えば、髪型も、化粧もそうだった。ゆるい二つ結びに、眉上に切りそろえられた前髪を赤のピンで飾った髪型や、ナチュラルだけど目がきらきら光るように見える化粧は、僕が好きだった小説の女の子を、彼女が真似をしたものだった。彼女は、僕の好きな恰好をして、僕が好きなような振る舞いをした。


「ただいま、まあちゃん」


 僕が返すと彼女は、にっこりと笑ってすりよってきた。僕は居酒屋のバイト帰りで、においが気になったけど、それを受け入れていた。いつだったか、気にして避けたら一晩中泣かれたのだ。それからは、彼女は気にしていないのだしと、割り切るようになった。

 僕はこのとき、フリーターをしていた。夢をもって入った会社で、人として扱われず、二年と少しで、僕は体を壊してしまった。当然ながら、会社は僕を簡単に切り捨てた。再就職しようにも、体が言うことを利かず、僕の視界は諦念にまみれていた。

 彼女と出会ったのは、そんな時だった。


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