第7話

 それからさらにまた、ぱりっとしたシャツにパンツ姿の女性がやってきた。彼女ははつらつとして、静かに笑っているが、あなたを見ると、ほんの少しの不安がのぞいた。それから、とても悲しい顔になり、もう一度励ますように笑顔を作ると、あなたを見下ろした。


 彼女は桜の下、焦燥的な希望に燃えていた。よい薬に出会い、おかげで病状が安定し、短期のバイトをするなど、少しずつ社会への復帰を目指すことができるようになってきたのだ。そうして、ようやく今、資格を取るために、専門学校へと入学したのだった。

 今となっては、彼女はあらゆることに、深く感謝を覚えていた。かつての自分がいかに浅はかで、傲慢であったか、よく理解できた。つらい思いもたくさんするが、それが真人間になるために必要なことであるなら、頑張って受け入れていく。そう決意していた。ちゃんとした人間になって、いろんなものに報いたい。報える人間にならなくてはならない。そう思うと、不安定な足場だが、胸が熱く震えるような心地がした。

 桜がちらちらと舞う中、ふとすでに葉桜があることに気づいた。こんなにも花は盛りであるのに、もう葉がでている。その事に、彼女は寂しさを覚え、次いで不安になった。不安になったのを、さっさと打ち消した。

 強くならなくてはならないのだ。花の盛りの方へと目を移すと、彼女の気分はよくなった。

 ふと、思い出すのは、あの日の光景だ。なぜかずっととらわれてきた光景。しかし、それも、明るく客観的に見ることが出来る。


「あの時、男の子は、きっと何かを探してた。一生懸命探していたのに、私はなにも知らない顔をして、通り過ぎた。そんなだから、誰も私を助けてくれなかったんだわ」


 けれど、今は違う。もうそんな冷たい人間じゃあない。そう思える自分が、彼女は誇らしかった。能面のような笑顔で、彼女はあなたを見下ろした。


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