第17話 消えゆく令嬢と後日談
「お待ちください!」
「どうかお戻りください!」
誰かが無理やり入ってくるのを引き留めようとするような?
「通してください、今はそれどころではないのです!」
制止する人間たちを投げ飛ばし、女性ながら法廷に入ってきたのは先ほど証人として証言をしたゾフィね。
その後ろにはアイリスが続いていたわ。
「ごめんなさい、罰は後でうけます」
アイリスが投げ飛ばされた役人たちにお辞儀をしながら謝罪した。
そういえばミカのいた現代日本よりはるかに男尊女卑の激しいこの国では、裁判を傍聴できるのは男性だけであり、女性が入れるのは原告か被告、あるいは証人になった時だけ。
外の様子からただ事ではないと悟ったゾフィがアイリスを連れて入ってきたのよ。
「「ロゼライン様!」」
ゼフィーロが気を利かせて、二人を外に出そうとする役人を抑えてくれてるわ。
「そうね、やるべきことも終えたし、そろそろ……」
ロゼラインが答える。
皆それ以上は言葉につまって何も言えない。
わざわざ禁を犯して駆けつけてくれたアイリスやゾフィ。
そして今まで捜査に協力してくれたゼフィーロ。
幽霊らしく空気凍らせて終わるつもりだったロゼラインが、不覚にも少しほろっとなったみたい。
「大丈夫、貴方たちならできるわ。もう何も心配していないから」
最後にロゼラインはそう言って、金色の光の中を消えて言ったわ。
いや、消えていったといっても生きている人間の目に見えなくなっただけで、霊魂はちゃんと残っているのよ。
ただ、彼女はとても疲れていた。
霊魂だけの存在が行くべきところに行かずに現世にとどまり続けるとものすごく消耗してしまうのね。
だから速攻ティナの元に連れていき、強制的に睡眠をとらせたわ。
幽霊でも寝ることができるのかって?
細かいこと言わないの。
とにかく魂を肉体を持つ者たちが生じさせる淀みや汚れのない場所で、しばらく休ませることが重要なのよ。
充分休ませてからロゼラインの魂をどうするか?
彼女の希望を聞いたうえで考えよう、と、ティナは言ったわ。
その間に私はロゼラインとかかわりのあった人たちがどうなったか、確認するために現世に残ったわ。
今まで私を視認でき、おしゃべりもしたアイリスやゾフィも私の姿はもう見えない、今の私はただ物陰から人々の様子を観察する精霊王の眷属その一でしかないの。
まず、極刑を宣告された二人の被告は三日後、王宮の地下で刑が執行。
さらに、一週間後の会議でパリスの廃嫡が決まり、新たにゼフィーロが王太子になったわ。
後日談だけど、パリス廃太子はホーエンブルク家分家筋の伯爵家の領地にお預けとなり、実質的な幽閉の身となり、パリスと親しかったヨハネス・クライレーベンやそのほかの近衛兵たちの家門も、政治的状況を鑑み彼らを廃嫡し、別の人物を後継ぎに据えたようね。
ロゼラインは今もうとうと夢の中。
時々目を覚ましては私の報告を聞くの。
ゼフィーロとアイリスが王国の慣例より早く結婚したのには驚いたようだけど喜んでいたわ。ちなみに王国の慣例とは、花嫁が十八歳の時に結婚することよ。
ロゼラインも生きていたら、あと半年ほどで結婚だったんだけどね。
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