第9話 ロゼラインの目撃談が増えてるの

 最近少し困ったこととして、ロゼラインの目撃談が増えているのよ。


 死に方が死に方だったから、王太子の元婚約者の幽霊なんて怪談話としては格好のネタよね。


 見えている人間はロゼラインの死を心から惜しんでる者たちだけど、それが増えてきたのは、新しい王太子の婚約者サルビアが期待はずれすぎるからだそうよ。


 これにはロゼラインも複雑な顔をしたわ。


 生きている間は一生懸命仕事をしてもそれを当たり前のように思って、母や王太子にロゼラインが好き勝手罵られてもかばってくれる人もいなかったくせに。

 居なくなってから、今さら惜しまれても……。


 でも、噂が拡散されていく速さについては、


「そうですね、亡くなられたロゼライン様の姿を目にしても、普通は自分の目がおかしくなったのでは、と、考えます。現に自分もそうでした。でも、誰かが『視える』と口火を切ったら、『自分も』と明かす人間がどんどん出てきて、それが今の状態なのではないでしょうか」


 心理分析にもたけた侍女ゾフィが語る。


 困るのはその目撃談が第二王子ゼフィーロと一緒にいるところが多いこと。


 捜査は秘密裏に行っているので、ゼフィーロとロゼラインが関連付けられるのは少々まずい。


 ウ~ン、と、皆で思案しているときに聞き覚えのある声が。


「そろそろ行きづまる頃だと思っていた。だから助太刀に来たぞ、我が小さな眷属と薄命の美姫よ」


 精霊のサタ坊よ。


 あのね、普段彼らをフォローしているのは私でしょ、たまに顔出すだけのくせになぜにそんなにドヤ顔?


 ついでに言うと私は精霊王ティナの眷属であんたの部下じゃない。


「君たちがそろそろ助けを必要とする頃だと思ってやってきたんだ、感謝してほしいな」


 だから、なぜどや顔で感謝の強要?


 そもそもあんたらの失態でロゼラインは今の状態になっているわけだし……。


 サタ坊は白い小さな人型をロゼラインに差し出したわ。


 これは私たちの仲間、四大精霊の一人、破壊と再生をつかさどるプルカシアだけが作ることのできる人造人間ホムンクルスよ。


 魂をその中に入れると人間のように活動できるの。


 ロゼラインが入るとまず彼女そのものの姿になったわ。


 さすがにその姿のままではまずいので手直し。


 頭の中で姿を思い浮かべれば容姿も変えられるのよ。


 ロゼラインは前世の北山美華の姿を連想したわ。

 そのあと、少し顔の彫りを深くして目鼻立ちもはっきりさせる。


 ロゼラインと美華のハイブリットね。


 ロゼラインと私たち精霊が相談し合いながら人造人間の形を変えてゆく様を、生者三名(ゼフィーロ、アイリス、ゾフィ)はぽかんとした形で見ていたわ。


「ほらほら、感心してないで! これでロゼラインも捜査に加わることができるわ。奴らのより近くで秘密がつかめるような働き場所を、エライ人が手をまわして確保しないでどうするのよ!」


 私がはっぱをかけ、ロゼラインはウスタライフェン家の口利きで王宮の掃除婦として雇われることとなったわ。


 この人造人間ホムンクルスにはどんな毒も聞かないし、刺されたり殴られたりしても痛みは感じないし、死にもしない、ほぼ不死身の体なの。


 ああ、そうそう。

 捜査の進捗状況だけど、例の毒薬に追跡魔法をかけてみたんだけど、王宮内の魔導士たちでは時間が経ちすぎておぼろげにしか分からない。

 それでは証拠能力に乏しいので、外部の魔導士に頼むことにしたの。


 時間が経ってもわずかな思念の痕跡から触れた人物を全て言い当てることのできる凄腕なんですって。


 彼を呼んで調べてもらえるまでにはまだ時間がかかるから、その間にロゼラインも潜入、その結果ははたして?


 私もがんばるわよ!


 それからサタ坊に、どうしてそんなにもったいぶって偉そうなの?って、こっそり聞いてみたら、


「私たち精霊は人々の信仰の対象でもあるんだ。ある程度威厳を見せなきゃ格好がつかないじゃないか」


ですって……。

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