第7話 希望の星ロゼライン
調停裁判が終わった後、私たちは上機嫌で王宮の廊下を歩いていたわ。
敵の戦力を首尾よく削ることができたんだもんね。
「お待ちください!」
そんな私たちを追いかけてくる人物がいたわ。
裁判で陪審役をやっていた人物、ゲオルグ・シュドリッヒ。
被告のクライレーベン親子にやたら突っ込みまくっていたゼクトのおじいちゃんとちがって、始終無言でいたコワモテのおっちゃんよ。
「お待ちください、ゼフィーロ殿下。あの、失礼ですが、どなたとお話になっているのですか? あ、あの……、私の目がおかしいのでなければ、後ろに浮かんでいる女人と黒い小動物……」
見えていたのね!
それにしても『黒い小動物』って言い方……。
まあ、ふわふわと宙に浮かんで進みながら、人間の言葉をしゃべっている『猫』は一般的な猫とは一味違うけど。
「君は、見えるのか? 義姉上たちが!」
ゼフィーロが驚いておっちゃんに問いかけたわ。
そして、見えている霊体がロゼラインだとわかると膝をつき落涙。
その大げさなしぐさに私たちは面食らったの。
「わたくしたち警務省の者は、未来の王妃ロゼライン様に期待をかけていたのです。それがあのような不幸に見舞われ、この国にもう神も正義も存在しないと思っていたのですが、そのお姿を拝見して希望の光が見えた気がします」
人目のある廊下で立ち話もなんだから、彼も連れてゼフィーロの部屋に。
ちなみに私はゼフィーロから『神の御使い』と紹介されたわ、エッヘン!
ロゼラインとしては、どうして警務省の中堅どころの彼からそこまでされるのか、心当たりがなくとまどっていたわ。
彼とは面識すらなかったのだから。
王宮には王族や要人たちの身辺の警護をする近衛隊と、王宮内の治安維持を受け持つゲオルグたちが所属する警務隊が存在するの。
役割的にどちらが上ということはないんだけど、王太子パリスは自分に近い近衛隊への身びいきが非常に強かったの。
だから、この人が王位に付いたら自分たちはどうなるんだろう、と、警務隊はうつうつとした気分になっていたらしいわ。
そしてある日、警務隊と近衛隊の間に悶着が起きたの。
泥酔して王宮内の庭園を荒らす非番の近衛隊士が数名いて、それを止めようとする警務隊と小競り合い。その近衛隊士が王太子付きの者であったため、彼らを無罪放免にし、同時に取り押さえた警務隊を処罰するよう王太子がねじこんで、圧力をかけようとしたのよね。
だけど、荒らされた庭園を管理していたロゼラインが決まりにのっとって、つまり婚約者に『忖度』せず、近衛隊士を懲罰房に入れ、逮捕にあたった警務隊士は無罪放免、当たり前の処置よね。
その毅然とした態度に、警務隊は感動し、ロゼラインを『希望の星』とみなすようになったのよ。
自分の知らないところで、そんな風に見られていたことを知り驚くロゼライン。
ただし、彼女自身は婚約者である王太子の意に逆らったので大変だったらしいわ。
王太子はその後、あてつけがましく彼の機嫌取りが巧いサルビアをいつもそばに侍らすようになったし……。
彼女の方がちゃんと決まりにのっとって処置をしたというのに、それを婚約者に従順でないかわいげのない彼女の方に非があるかのように毒母は吹聴し……。
処分を受けた近衛隊士の機嫌を取るためにその毒母の言い分を弟は吹聴し、ロゼラインが公然と侮辱させるように誘導させるし……。
いわばロゼラインと王太子パリスの間に決定的な亀裂が入った出来事だったわけよ。
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