第4話 名前をもらったわ

 その決意や良し!


 私はロゼラインを励ますことにしたわ。


「動機が『復讐』でもいいのよ。理不尽に人を踏みつけにするバカにお灸をすえることにきれいな理由はいらない。あなたが目的を達するまで私がそばについてサポートするわね」


 ロゼラインは礼を言い、そして私の名前を聞いた。

 

 どうせ暫定的な関係なのだから、好きに呼んでいいわよって言ったら『クロ』って彼女は名付けたの。


 KUROって発音は、彼女がかつて生きていた「日本」という国で黒い色を意味するのよね。まったく人間っていうのはどうして私の毛並みの色から名前を付けるやつが多いのかしら?


 まあ、それはいいわ。


 サタ坊の方からも霊力をロゼラインは注入されたみたい。


「霊体である君が視えるのは霊視など特殊な力を持ったものに限られる。それの幅を広げたんだ。君の死を心から惜しんでいる者、そういう人間たちには君の姿が視えるようにした。話もできるはずだから、そういう者たちの力も借りて目的を達成するが良い」


 サタ坊は説明した。

 でもそれってなんだかロゼラインの人望チェックみたいで厳しいわね。


 自分たちの落ち度でみすみす彼女を死なせておいてさ。


 彼女も、そんな人いるだろうか、と、少し心配顔。


 やっぱり私のフォローが肝心よね。


 とにかく私とロゼラインは再び現世に戻ることとなったわ。


 まずどこへ行きたいか?


 ロゼラインに聞くと、アイリスの元へ行きたいと言ったわ。


「彼女、思いつめてなければいいけど……」


 何時間も話し込んでいたような気がするけど、現世を離れた時から一時間ほどしか経ってないのよ。


 アイリスの実家のウスタライフェン家から彼女の部屋へ入り込む。


 もちろん霊体だから壁も扉もすり抜けてフリーパス。


 部屋に入ったときには彼女はうずくまって泣いていたわ。


「あなたは悪くない! あなたが自分を責める必要はどこにもない!」


 ロゼラインはアイリスに話しかけた。


「ロゼライン様、お迎えに来て下さったのですか? こうなった以上、私も……」


 ちょっとぉ……、すでに人生あきらめたようなこと言っているよ。


 あれ、でも、そうやって返事するってことはアイリスにはロゼラインが見えているってことよね。


 よっしゃ!

 協力者一人ゲット!


 いやいや、今はそれどころじゃないって……。


「ち・が・う!」


 ロゼラインが声の限り叫ぶ。


「あのね、ヨハネス・クライレーベンがあなたにしたことも全部知っている、気づかなかっただろうけど、上空から見ていたの。あなたが恥じる必要はない、恥さらしなのはクライレーベンの方よ!」


「見ていた、そんな! でも、だったら……、わかりますよね」


「いやいや、だからね……」


「ロゼライン様がお亡くなりになってから考えていたのです。家同士の都合でいやいや婚約関係を結んでいたのは王太子殿下だけじゃなくゼフィーロ様もではないかと。私は臆病だから面と向かって婚約破棄を告げられるのが怖くて、今回のことを口実に自分からそれを願い出ているというところもあるのですよ」


 ああ、この娘アイリスって自分の相手も王太子パリスと同様、彼女との婚約を迷惑がっていると思い込んでいるみたい。


 でも、ロゼラインは否定する。

 確かにゼフィーロは兄のパリス同様、婚約者に対する接し方について、紳士的な丁寧さはあっても恋人のような甘やかさを感じさせる要素は何一つなかった。


 しかし、パリスとは違うということをロゼラインはわかっているの。


 王族の婚約者として任された業務に対する質問や手伝いのため、アイリスはしょっちゅう王宮内のロゼラインの部屋を訪れていた。


 彼女が訪れている時、婚約者のゼフィーロも表向きは未来の義姉であるロゼラインのご機嫌うかがいのような顔でやってくることがよくあって、婚約者であるアイリスにかける言葉はそっけないところがあったらしいの。


 彼女の一挙一動をもらさず目で追っていた様に、ロゼラインは思わず笑いがこぼれそうになることが幾度となくあったんだって。

 

 迷惑がっているなんてないわ、でもそのことを私の口から言っても……。


 ここまでがロゼラインの考え。

 霊体同士、話さなくても全部通じてるわよ。


「さきほど、婚約解消をお願いする手紙を送ったことですし……」


 あいたたたっ……。


 もうすでに早まったことしでかしているじゃないのさ。


 いつ、と、ロゼラインが聞いたら、家に帰ってすぐ、今から一時間ほど前ね。


 「アイリスはここにいて、私がゼフィーロと話をしてくるから」


 私とロゼラインは、ゼフィーロ王子の誤解を解くべく王宮へ向かうことにしたわ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る