第3話 精霊サタージュと毒殺の真実
ロゼラインの魂は死の直前、この人生の走馬灯だけじゃなく一つ前の人生、つまり前世の記憶まで見えて思い出したらしいの。
その時は、こことは別の次元にある世界の「日本」という国で「北山美華」という名で生きていたそうよ。ちょっぴり性格が変わったように見えたのはそのせいでもあったのね。
それに関しては彼女の中で問題なく融合されているからいいわ。
サタ坊は自分のことを、とある概念をつかさどっている『上級の精神生命体』であると自己紹介。
その概念だけど、サタ坊は『善意と苦難』
要するに『善悪すべての行為に対し正しく報いを与える』ことを司るわけ。
四文字熟語で言うと『因果応報』ってやつね。
どうもこれがロゼラインの癇に障ったみたい。
なら未来の王妃として死ぬほど厳しい教育に耐え、それでも、家族や夫となる人に冷遇され挙句の果てに毒殺されたのも『正しい報い』の結果なのか?
そうロゼラインから聞き返されたら、サタ坊は言葉につまっちゃったわね。
正直言って私たちも、バカな王太子が及ぼす国への被害を最小限に抑えるために、ロゼラインに期待しすぎたきらいがあったわ。彼女の劣悪な環境に対して何のフォローもせず、ただ、頑張って国を支えてくれなんて配慮がなさ過ぎたのよね。
サタ坊はロゼラインに問いつめられてタジタジ……。
彼らは人知を超えるような力を持っているけど、それぞれ特定の概念に特化しているので、人間の心の細かい機微には少々疎いのよ。
「まあまあ、お姉さん。人とは努力した分だけそれに見合う成果が得られると信じたいもの。それゆえに彼の概念に対する人の期待値は大きいのだけどね……」
しかたがないから私が助け舟を出すことにしたわ。
「彼の魂一つじゃ異なる次元に数多くあるすべての世界の事柄について漏らさず対応するのはなかなか難しくてね。あまりにもひどい事例や危険性が認知されれば、対応すべく私らが飛んでくるのだけど、こんな風になる前に対応できなくてごめんね」
ロゼラインをなだめるように私は言ったわ。
私の言葉に気持ちがほぐれたのか、彼女はひざまずいてあごのところを優しくさすってくれたわ。ゴロゴロ。
ロゼラインが落ち着いたところで、サタ坊が再び声をかけた。
「遅きに失したという抗議なら甘んじて受けよう。今更ではあっても君の知りたいことややりたいことにこたえられる存在は私たち以外にはないと自負しているよ」
謝っているのにドヤ顔ってあんた……。
それを言われたロゼラインは頭を切り替えて、自身の死のいきさつに耳を傾けようとしたわ。
世界を俯瞰する私たち精霊にとっては、地道に証拠を集める手間もそれを組み立てて推理する必要もないの。
一つしかない真実ならすでにつかみ取っている。
私たちとは系列の違う『時』の精霊とその眷属の力を借りなきゃならないんだけどね。
あることに焦点を当て時間の経緯とともにそのモノや周囲がどう変わっていくかを彼らに見せてもらう、今回はロゼラインの命を奪った毒物について焦点を当ててみると真実が明らかになったの。
事の次第はこうよ。
まずロゼラインの恋敵だったサルビア・クーデンが、彼女の家の領地だけで採れる植物から抽出できる希少な毒を王宮内に持ち込んだことから始まる。
それを聞くとロゼラインは叫んだわ。
「ちょっと待って! 毒を王宮内に? 我が国の法律ではクーデターや暗殺を防ぐために、王宮内に許可なく武器類や毒物を持ち込んだだけで反逆罪で死罪になるのよ!」
シュウィツアーの法律のことは知らないけどね。
それはいったんわきに置いておいて、とりあえずサタ坊は話を続けた。
それはいわば人の手から手への毒物リレーだったの。
サルビアが持っていた毒物を王太子パリスが発見し取り上げる。
彼女がそこまで思いつめていたなんて、と、このことがパーティでの婚約破棄宣言のきっかけになったことも付け加えておきましょう。
パリスはロゼラインの弟のエルフリードに毒の処分を命じる。
エルフリードは自分の母にそれを頼む。
王宮の入り口の隊士たちにも威圧的な態度で持ち物検査を拒む母のロベリアはうまく毒物を王宮の外に持ち出した。
しかし、それを処分せず持ち歩いていたのよね。
そして建国パーティでの王太子の婚約破棄宣言。
これはロゼラインの母ロベリアにとっても寝耳に水の出来事。
自分の立場をどうとりつくろうか考えたロベリアは、持っていた毒でロゼラインの体調を悪くし、自分は傷心の娘を看病するけなげな母という立ち位置を得ようともくろんだの。
しかし母の予想に反して、サルビアの持ち込んだ希少な毒への体制がなかったロゼラインは命を落としたってわけなのよ。
ロゼラインは大きなため息をついたわ。
そして、どうしたいかを私たちは聞いたの。
「やりたいことは、真実を白日の下にさらして関係者にしかるべき罰を受けさせる。あと殺害にかかわりのなかったとしても、さっきのゲスなたくらみに参加していた愚連隊もどきの連中にもしっかりお灸をすえてやりたいと思っているわ」
彼女は息を大きく吸いきっぱり答える。
しかるべき罰とは反逆罪なのだから死刑の可能性もあるが、ロゼラインはもはや躊躇しなかったわね。
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