夜の砂浜君に出会う

かいさんたらこ

出会い

私は人が死ぬまでの時間を見ることができる。この能力をもってからというもの、家族には気味悪がられ、そこから高校を出て逃げるように上京した。


そこからは人が死ぬまでの時間を見ることができる占い師的なことをやっていて金を稼いでいた。


そんなある時、1人の少女に出会った。


1人ぽつんと夜の砂浜に座っていた。彼女の頭の上には30日という文字が浮かんでいた。私はその文字を見て


"あぁ、この少女が後30日しか生きることができないのか。"


すると、砂浜に座っていた彼女と目があった。


彼女は、私の目を見て言った。


「あなたは何をしているの?」


「散歩をしている。」


嘘をついているわけではない。ここにも目的があってきたわけでもなく、ただ、夜の海を見たくなっただけだ。


彼女は「ふぅーん。それにしては私の方を見ていたけどね。」


そう言われてドキンとした。


まさか人が死までの時間を見ることができるのをバレているのか?


・・・・いやそれは無いか。まさか心を読む能力ではあるまいしな。


そして私は彼女に


「気のせいだろう」


と返した。


その言葉に彼女は


「いーや!絶対見てた。"私の死ぬまでの時間を見てた"からでしょ!」


私はその言葉に驚愕した。


焦りながら彼女に、


「な・・・・なぜ知っている・・・。」


彼女は私の焦った顔を見て笑いながら


「だって私、人の心を読めるもん。」


驚いた。私以外にも能力を持っている人がいるとは。


「でさ、教えてよ、私が死ぬまでの時間を。」


少し言うのを躊躇った。


まだ高校生ぐらいの少女に教えるべきかと。


「躊躇ってないで言ってよ。私、覚悟はできてるから。」


「・・・・本当だな?」


「・・うん。」


そこ言葉を聞き、彼女に言った。


「貴女は30日後に死ぬ。」


彼女の目を見ながら言った。


「そっかぁ、30日か。」


彼女は悲しそうな顔をしながら呟いた。


「嘘はついてないみたいだね。」


少し笑った顔をしながらこちらを見た。


「嘘をついたところで何になる。」


「そうだよね。貴方の心を見ても、喋ったことと同じだったしね。」


少しの間沈黙が続いた。


「ねぇ、もし私が亡くなったら貴方は悲しんでくれる?」


「それは分からない。」


まだ会って数分しか経っていない。それなのに悲しめと言うのは無理があるだろう。


「うん。そうだよね。」


しまった。彼女は心が読めるんだったな。


「あー、その、何だ、私は悲しむか分からないが、家族は悲しむだろうよ。」


「いや、悲しまないよ。」


なに?何故だ?


「だって私、親に薄気味悪がられているもの。逆に喜ぶんじゃない?"気味が悪い奴がいなくなった"って。」


それに対して私は何も言えなかった。私も気味悪がられていた側だったから。


「君は悲しんで欲しいのか?」


「出来ればね。」


「そうか。」


ポケットに入っていた電子タバコを取り出し吸い始めた。


あまり苦くはなく少し甘さがあった。


「私なら貴女の死に悲しめるかもしれない。」


「え?」


「同じ境遇だしな。それに変な能力を持っていることまで一致している。類似点が多いから少し親近感が湧いた。」


「そっかぁ!それは嬉しいね!」


彼女は満面の笑みで笑っていた。


「・・・・それよりも死ぬのは怖くないのか?」


「・・怖いよ。だけどね、私のことを悲しんで、いつまでも覚えてくれる人がいるだけで、死ぬことが少し怖くなくなるの。」


「そういうもんなのか。」


「そういうものなの。」


吸い終わった電子タバコをポケットに入れ直し、彼女の方をチラッと見た。


彼女は泣いていた


それを見て慌てて


「どうした。」


と聞いた。


彼女は


「安心したからかな、もしくは死ぬことがやっぱり怖いのかな。分からないや。」


そうやって泣く彼女の背中をさすりながら


「きっと怖いんだろうよ。この世の中において死ぬのが怖くないなんて思う人はほんの一握りだ。死にたくないと思っている方が大多数だ。」


彼女の啜り泣く声も聞こえなくなり、


「うん。ありがと。少し楽になったな。」


「そうか。それはよかった。」


私は少しホッとした。


すると彼女が喋り出した。


「ねぇ、私の本音言ってもいい?」


「・・・あぁ、いいぞ。」


「私ね、もっと生きたかった。旅行もしたかったし、結婚もしたかった。もっと色々なことがしたかった!一番は親にもっと愛されたかった!」


親は子供に無条件で愛される。しかし子供は親から無条件で愛されないこともある。悲しいものだな。


そこから彼女の本音を聞いた。高校生ぐらいの彼女が背負うにはあまりにも重すぎている。


夜明けが近くなった頃、彼女は立ち上がった。


「私、もうそろそろ帰らなくちゃ。」


そう言った彼女は、目の周りが赤いが、顔はさっきとは違って晴れ晴れとしていた。


「そうか。それじゃお別れだな。」


「あっ、でもちょっと待って。」


「?」


そうすると彼女は何かを書き始めた。


「これ、多分私の葬式に来ると思うから、その場所を記したの。」


「何故葬式の場所を知っているんだ?」


少し驚きながら彼女に言った。


「パパとママが話しているところを聞いていたからかな?」


「そうか。それじゃあ貰っておこう。」


彼女から葬式の場所を書かれた紙を貰い、丁寧に折りたたんだ後、大事に胸ポケットに入れた。


「大事にとっていてね。」


「あぁ、大事にしとくさ。」


「私から最後に言っていい?」


「構わない。」


「私、貴方に出会えて良かった!貴方のおかげで、残りの日数を大事に過ごすことができる!貴方に会えたから、このやるせない気持ちも吹っ切れた!だから、本当にありがとう!!」


初めてだった。こんなに感謝をされたのは。目柱が少し熱くなってしまった。


「こちらも貴女のおかげで色々と悩みが消えた。ありがとう。」


彼女は笑顔のまま


「それじゃあ、さよなら!」


「あぁ、さよなら。」


またね、は言えない。だってこれが最後だから。


彼女は元気に走って帰って行った。


そこから30日後、彼女の葬式があった。


彼女のご両親は出席していないようだった。


彼女の葬式が無事終わり、私はとある場所に向かっていた。


そうして歩いていくとある砂浜に着いた。彼女と初めて会った場所。そこに花を添えた。そして胸ポケットから紙を取り出した。


彼女が書いた紙を。


紙を折りたたみ手を合わせて祈った。


"安らかに眠りますように"


こうやって誰かを弔うのは初めてだったな。


顔を上げて空を見ればあの時と同じ月だった。


ふと、風が吹いた。


"ありがとう"


振り返ってみても何もなかったが、そこには彼女がいたような気がした。


そこから少し夜の海を眺めていた。月明かりが差していてとても幻想的だった。


そこから少し経ち、夜明けが近くなった。


帰ろうと思い、砂浜からを出て家に帰って行った。貰った紙を大事にしまいながら。

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