ピッキング

木ノ下下木

第1話

曲が流れていた数分、そして曲が終わってからの寸時、体は頭から爪先まで彫刻のように固まっていた。

呼吸が続いている事は分かっていた。

肺が膨らみ、萎んでいるのが、服越しに分かったのだ。

曲が流れている間、そんな些細な事に気がつくほど心が止んでいて、口は何も物言わず、流れ込んでくる音楽に浸っていた。

心と頭が覚めてから目が痛い。

思えば先の一曲、その数分間に自分は何度瞬きをしただろうか。 

二、三度、いや一度もしていないから目が大方乾いて痛いのかもしれない。 

乾きや痛みまでもが曲にかき消されていたということなのだろうか。

なんて、傑作なんだ。

圧倒や圧巻というのはきっと、さっき味わった生命活動以外の硬直を指すのだろう。

いつもとは比べ物にならない程、考えがするすると出てくる、やけに頭がよく回る。

素晴らしい曲というのは、人の脳を活性化させるのか。

素晴らしい、今までの何よりも素晴らしく、好きだ。

この曲を、この曲の作者を、もっと知りたい。

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