第一章2 『風呂と晩飯』
人の良さそうな体格のいい人が男湯に入って行った。装備から察すると、狩人など、そこら辺の役職だろう。
暖簾をくぐって中に入る。さっきの男の人からの目線が痛い。
「……君?女湯はこっちじゃないよ?」
頭にかかっているローブを脱いだ時に言われた。
それは分かっている。だから僕はここの男湯にいるのだ。とりあえず、察してくれないかと、無視してみた。
「えっとー……。君?」
僕はその男の人の顔を見る。
「女湯は、ここの隣」
「……僕は、男です」
「いや、えっとね?そうじゃなくて」
何もそうじゃなくない。僕は男だ。
「僕は男です」
「「……」」
今回の沈黙は、お菓子のためではない。
湯船に浸かっていると、さっきの男の人が隣に移動してきた。
「さっきは悪かった」
「いえ。なれているので」
よく間違えられる。さっき道具屋でだって、最後まであの店員さんは気づいていなかった。
「宿屋に泊まっているということは、君も冒険者か何かか?」
「そうです。仲間と一緒に止まってます」
さっきから風呂の隅で小さな虫が飛んでいる。目視はしにくいが、虫も魔力が少なからず出ているため、僕は気づいた。
「そっか。装備的に、魔法使いとかそこら辺だよね」
装備だけで職を見抜くのは誰にでもできることだ。相手の服装や、装備で相手の職を見分けないと、物騒な世の中のため、最悪の場合対応できずに命に関わることもある。
「はい。その通りです。あなたは狩人ですよね?それに、あの虫が見えてるということは相当目がいい。少し肩にあざがある。そして、手の皮がかなり厚くなっていて、タコのつき方も特徴的」
少し特徴を口に出して行ってみた。
「そうだな。狩人だ。武器までわかるか?」
狩人さんの特徴をまとめてみると、二つの結論が出てきた。
「使用武器は超長距離のスナイパーか、近距離のショットガンですかね。ガンナーじゃないですか?」
「当たりだ。チビのくせしてやるじゃないか」
「多分、あなたが思っている年齢プラス3したのが大体、僕の年齢です。そろそろのぼせそうなので、先に出ますね」
「うーい。旅路に気をつけろよ」
もう少し湯に浸かっていたいが、僕の小さい体ではのぼせてしまいそうだ。
風呂から出て、Tシャツに短パンの姿になるが、ローブはしっかりと被って、目立ちにくくする。
「ただいま」と部屋に帰ってきた時に、口から出かけたが引っ込める。
ユウは瞑想をしていた。10分もすれば終わるはずなので、冷蔵庫で冷やしておいた水を取り出して飲んだ。
彼女が瞑想をするために座っているベットの横の、空いているベットに仰向けで倒れる。
最初の街に来るまでに5日とか長すぎるでしょ。
そしてそのまま眠りに落ちる。
「マイ。夕飯食べにいくよ」
目を開けると、そこに胸があった。これはわざとやっているのか分からないが、いつも起こしてくれる時と同じ格好なので、わざとではないのだろう。
体を起こして、ユウを見ると、彼女は口元に手を当てていた。
「晩飯食べにいくよ」
時計を見てみると、風呂から帰ってきて30分くらいしか経っていない。
「分かった」
ベットから降りて立ち上がると、ローブが頭から落ちた。
「私もいるから、ローブは大丈夫じゃない?」
「まあ一応ね。頭のは外しておくけど。鎧も剣も持ってないと、ユウの方がナンパされそうな気がするけどね」
部屋を出て、鍵をかける。
髪が濡れたままローブをかぶって寝てしまったため、少し髪が跳ねていた。ユウがそれに気づいて後ろから撫でて直してくれた。まるで姉弟だ。そう思っていると、ユウが口を開いた。
「これじゃあまるで姉妹だね」
「少しは僕の気持ちを考えて発言しようか?」
「姉妹だったら姉妹っていう名目でいつでもハグできるのに」
「話は聞いてたのかな?」
僕の身長はユウの顎までしかない。姉妹に見えるかもしれないが、少しは配慮して姉弟と言っても良いのではないだろうか。
食堂では、まだ外は明るいというのにもう酒を飲んでいる人たちでいっぱいだった。
「酒臭い」
「こら。そういうこと言わないの」
できるだけ端っこの目立たない位置に、席は空いていないか探してみるが、すぐには見つからない。
「よう。姉ちゃん。俺らと飲まないか?」
「んー。あんたたちが破産してもいいなら飲むけど?」
ユウはまるで挑発するようにいう。
僕は穏便に済ませたいので、ユウの後ろから少しだけ顔を覗かせて、自分の底なしの魔力を放出して圧をかける。酔っていて警戒心というものがなくなったのか、全く気づきもしない。
「アマのくせに生意気だな。もちろん、たっぷり飲めるだけの金はあるよ」
「素敵なお誘いだけど、私の連れがあなたたちを殺しかねないからやめておくわ。じゃ」
僕の放つ魔力にようやく気が付いたのか、動けずに呆然としている。
普通の人では、空気が重くなったなと感じる程度だが、気づいているようなところを見ると、伊達に冒険者をやっているわけではないのだろう。
幸運にもテラス席が一つだけ空いていたので、そこに陣取った。
「うわぁ。星が全く見えないよ」
なにに関心をしているのか、と聞きたくなったが自分も空を見上げて気が付いた。
「それだけ街に光が灯っていて、賑わっているってことだろうね」
周りは3階建てくらいの煉瓦造りの家などに囲まれていて、月すらも遮られてしまっている。
「村では、どこでも星が見えたのに」
「発展してないってことだね」
僕はあのもう今はない森の中の故郷を思いながらいう。
「聞いてて悲しくなるからやめて?」
ユウが思い浮かべているのは、僕らが会った、僕が人生の半分を過ごした、あの王都の郊外の村だろう。
いつまでも感傷に浸っているわけにもいかないので、テーブルの横のメニュー表を見る。
「僕はこのパスタかな」
「私もおなじやつで」
「ピザも少し気なるけどね」
少し悩んだ末に、ユウが魅力的な提案をした。
「ピザは2人で半分ずつ食べよっか」
2人とも少食なので、どこかに食べに行く時は大抵このような頼み方をする。
メインは決まったので、ドリンクのページを見てみる。
「私はお酒飲むけど、マイはどうする?」
「ユウ飲むの?久しぶりに飲もうかな」
ユウがウェイターを呼ぶ。
「このパスタ2つと、マルゲリータをひとつ。あと、ビール。マイは?飲み物」
「じゃあ、グレープフルーツジュースで」
結局お酒ではなく、ジュースにした。
お酒を頼んで、年齢的に、とか言われたら恥ずかしい。
「ご注文は以上ですか?」
「はい」
「確認します。きのことベーコンのパスタをお二つ。マルゲリータをお一つ。ビールをお一つ。グレープフルーツジュースをお一つ。で間違い無いでしょうか?」
頷くと、すぐに厨房へと行った。
こういう時、よく噛まずに言えるなといつも思う。
大抵こっちは聞かずに、適当に返事をするだけなのだが。
ユウが外を見ているので、釣られて僕も外を見た。
やはり、星は見えない。雲があるのかすらもわからない。
「先にお飲み物です」
料理が来る前に飲み物が来た。
「乾杯」
ユウがグラスを少し持ち上げる。
それと同時に僕も上げて、グラス同士をカチンと鳴らす。
「乾杯」
半分ほどまで一気にビールがユウの喉に流れ込んでいく。
ストローで少し液体を口に含み、苦味を転がす。
初めてこれを飲んだ時からずっと、僕はこの苦味を欲している。
沈黙に耐えきれずに、あのさ、と話を切り出す。
「ユウ。鎧キツくないの?」
「どこ見てんのよ?えっち」
確かにそうかもしれないが一緒に風呂とか言ってたやつに言われたくない。
「いや。物理的にさ?あれ一応、男用だった気がするんだけど」
「無理やり押し込んでる」
なるほど。
「じゃあ、今みたいにTシャツの時は?」
今は全く胸の膨らみが見えない。
「サラシ。あの、胸に巻く白い布」
「あれか」
「ちょと暑いから、外そうかな」
ユウはTシャツの中に腕を突っ込み、ゴソゴソやっている。
「マイ。この布の端っこ引っ張ってくれない」
仕方なくTシャツの袖から出てきた長い紐を引っ張る。
「もう若干酔ってるよね」
「べーつに」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
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