第3話 街へ
夕方に家へ戻る途中でめまいのしたミノルが、目を覚ましたのは、朝日の射しこむ、街道脇の土手であった。ミノルの寝ていた所だけ、草が折れ、他はひざ丈ぐらいの草に覆われていた。ミノルの記憶にある田んぼの近くには、こんな草は生えていない。しかも広葉樹が多く分布した森も見える。ミノルの家付近は、建材を目的に杉が多く植林されていたが、今は管理する人もいない雑木林だった。それに乗っていたはずのトラクターも見当たらない。ミノルが『あれ?まだ夢の中かな?』と思ったとしても仕方ないことであった。ミノルは『辺りを見回し、ここに居ても仕方ない』と思い歩き出した。右も左も分からないので勘であったが、しばらく歩くと森が開け、農地と思われる麦畑が見え、奥に高そうな塀と門が見えた。道はその門に繋がっているようであった。
道の左手は、なだらかな丘に麦が植えられ、風に揺れている。右手の畑には、ジャガイモだろうか、見た事のある白い花が咲いていて、その奥にはトウモロコシだと思われる背の高い植物や緑の葉物があった。ミノルは畑の景色が日本とは違うなと感じていた。
門に近づくと左右に兵が槍を持ち立っていた。兵は青い目で顔の彫の深い、ミノルから見れば外国人になる。ミノルは恐る恐る兵に日本語で声を掛けた。
「あの、ここはどこでしょうか?」
門に居る衛兵は森から歩いてくるミノルを見つけ不審に思っていた。そもそも武器も持たずに森にから出てくるのが可笑しいのである。青い上下に紺の上着、ワラを編んだ帽子らしきものを被っているが、この辺では見ない服装をしていて、遠くからでも異質なのが良く分かった。門の左右にいる衛兵が言葉を交わす。
「なぁ。あれって、領主様が言っていた異国人かな?」
「どうだろうな。見た事ない服ではあるが」
「取りあえず、衛士長に連絡してこいよ」
こうしてミノルが門に来る前に、衛兵の1人が衛士長に連絡に走ったのであった。
ミノルの問いに衛兵は、
「ここはハフミスタ領ライエテの街です。あなたは、どこから来られましたか」
「道に迷ったようで、森を出たら、ここに着きました」
こんな会話をしたら『不審な奴、そこに直れ』と言われ、槍を突きつけられそうだが、異国人の話を聞いている衛兵の対応は丁寧であった。
「では、少々聞きたいことがありますので、こちらへ」
と衛兵詰め所横の取調室へ案内し、水を出し、立ち去る前に、
「係の者を呼んでまいりますので、ここでしばらくお待ちください」
と言って出て行った。
『しばらく』と言われ30分ほど待ったが誰も現れず、取調室の扉を開け、衛兵に問いかければ『もう、しばらく』と言われる始末。小さな窓が1つあるだけの、あまり広くない取調室。ミノルは仕方なく椅子にドカジャンを掛け、椅子に座り3時間ほど経ち、ミノルが船を漕ぎ始めた頃に、兵士とは違う服を着た高貴そうな2人が取調室に入ってきた。
2人ともやせ型で、ズボンにシャツを着て、短いマントを付けていた。マントが無ければ、役所の人みたいだなぁとミノルは思った。
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