私たちの王国には異国人がいます。秘書ブルーノの回顧録

森野正

プロローグ

第1話 プロローグ

 王都の一角にナベを持ったご婦人やメイド服の女性、小間使いが列を作るお店『タバタ商店』。主力商品のは『トウフ』『オカラ』という、このお店のオーナー、ミノル・タバタ男爵が作られた品物で、男爵は異国人です。

 王国は南北に長く、王都は温暖な地域、北部は王都より寒く乾燥した地域、西部は気温が高く乾燥した地域、東部は海が近く温暖ですが王都より湿気の多い地域、南部も海が近く気温が高く湿気の多い地域です。その南部地域では稲を多く作っていて、各村ではコウジを用いた独自の食文化がございました。それをタバタ男爵が調査、研究され、王都民の舌に合うように製作、販売しており、人気となっております。まだ販売は出来ませんが、『ミソ』と言う商品も研究しております。


 申し遅れました、私、タバタ男爵の秘書をしております、ブルーノ・ダカンと申します。元々は王家に仕える文官でしたが、タバタ氏が異国よりいらした事により、タバタ氏の秘書となりました。このお話は、私が見たタバタ男爵の功績になります。タバタ氏は異国では庶民だったそうですが、王家では対外的な事情により、男爵の爵位を授け、私と執事、メイド数名が付き、王城から遠くない場所にある王家所有の家から男爵が住んでも可笑しくない屋敷をタバタ男爵の住まいとしました。

 しかし、タバタ男爵の商品は気温や湿度の関係で、南部地域以外では製作できないものですので、南部地域にも、屋敷、工房、倉庫を建てられ、普段はこちらの屋敷で生活しております。私も秘書としてこちらの地域に引っ越してきました。王都には月1回程度、お店の様子や売り上げの確認などで来ております。


 元々、王家には『王国に来た異国人は国を豊かにする。王国に利があるならば積極的に保護せよ』という代々継承され続ける言い伝えがございます。これはタバタ様が来られる300年前から100年程度に1人、異国からの来訪者がおり、その方々によって王国が繁栄したのが始まりのようです。現王はこの言い伝えを守り、各地の領主にも、もし異国人が現れた場合は保護し、王城に伝えるようにと通達していたようです。

 異国人は黒目で王国民とは体形や顔の作りが違うようです。王国民は、基本、青目で顔の彫が深く、手足の長い民族です。


 タバタ男爵は、東部のハフミスタ領にある街に現れました。黒目で着ているものも、この辺では見ない格好でした。衛兵は怪しみますが、領主より異国人の通達がありますので、衛兵詰め所横の取調室に軟禁しました。その後、王城へ通達があり、取調官と私も同行しハフミスタ領の街に急行しました。

 取調室に居たのは、先ほども申しました、黒目黒髪の男性で、年齢は私とそれ程変わらないように思えました。着ているものは、この辺では見た事のない上下繋がった青い服。後日、タバタ男爵に聞いたことによれば『ツナギ』という作業服だそうです。それと、椅子の後には、これも見た事のないモアモアとしたものが付いた濃紺の上着がありました。こちらは『ドカジャン』というそうです。

 ちなみに私たちの服装は寒暖の時期にもよりますが、羊毛や麻で出来たズボンやシャツを着て、階級や職を表す短めのマントを纏います。私のマントは青地に白の1本線です。これは文官で一番下の位を意味しますが、文官や武官になるのは大変なので、文官になれただけでも感謝です。私の実家は男爵ですが、兄が2人いますので私は家を継げません。自分で何とか生活しないとダメなのです。話が逸れましたが、商人や農民はズボンとシャツだけでマントはありません。


 取調官はタバタ氏に色々な質問をします。当たり前ですが、異国人なのか、他国のスパイなのかを判断をしないといけません。異国人であれば王城で保護し、スパイであればこの場でxxです。

『お名前は』『住んでいた場所、国は』『職業は』『年齢は』『お金は』『得意なことは』『既婚ですか』などです。

 取調官がこちらを見て頷きました。私も後で聞いていましたが、間違いなく異国人でしょう。取調官も心得たもので世間話を挟みつつ尋問しています。

 お名前は『タバタ・ミノル』タバタが姓でミノルが名だそうです。こちらの国では名が先なので、ミノル・タバタと言います。住んでいたところは〇〇ケンでニホンという所らしいですが、この辺にはありません。職業は農業だそうで、持っていたお金を見せて頂きましたが、この辺の国で使われる金銀銅貨でも無ければ、紙幣という精巧に書かれた絵の付いた紙のお金など見た事もありません。


 取調後、タバタ氏を連れて王都へ戻ることになりました。ハフミスタ領主には後日、王城より異国人を保護したという事で感謝状と報奨金がでることでしょう。帰りの馬車では私と取調官、タバタ氏を交えて世間話をしながらになります。タバタ氏にこの国の事を知っていただく必要があるので好都合です。たぶんですが、私がタバタ氏と王家の窓口になると思いますので、今のうちに色々と情報収集しないといけません。

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