第47話 二人の魔王
△△(side:カリン)
「……ッ!はぁ……はぁ……【
私は左腕に突き刺さっている矢を引き抜き、自分に治癒魔術をかけます。
あっという間に塞がっていく傷跡。
だけど、体力と血液の消耗が激しすぎていつ倒れてしまうか分からない状況です。
「頑張るねぇ、聖女様。だけどそろそろ面倒になってきたしいい加減諦めてくれないかな?」
そう言って私の抵抗を無駄な物だと煽る目の前のレッドの身体には私の血液によってできた糸が巻きついており、その身動きを身動きを封じていました。
【
治癒魔術の研究の傍らに編み出したこの魔術は私の身体の血液を自在に操る物であり、それによって拘束された事が原因なのか、レッドの【
とはいえ、その拘束もいつまで持つかは怪しく、先程から私に向けて異空間から飛ばされ続ける矢によって、体力も精神力も限界に近付いています。
「【
「うぐっ……!?」
右脚の太腿に3本の矢が突き刺さり、とうとう膝をついてしまいました。
集中力が途切れた事で【
「ようやく力尽きたかい?殺さないように加減しながら嬲るってのは難しいから苦労したよ。でもまぁさっきの血を使った魔術といい、君が治癒師として並外れた能力を持っている事を確認出来たと考えれば有意義ではあったかな」
起死回生のチャンスはないかと周りを見渡しますが、既に気絶させられてしまったダニエラさんと二人の男性治癒師が目に映るだけです。
「私をどうするつもりですか」
万事休す。
私に出来るのはレッドの顔を睨みつけてやる事ぐらいでした。
「君には僕の作品の素体になってもらおうと思っていてね。前に作った【
レッドの発言を聞いて脳裏に思い浮かんだのは先日開いた【黒と白】の三人とのお茶会で得られた情報です。
彼女達から伝えられたダンジョンの情報にはミスリル製の扉や共食いして進化する
「……先日攻略されたダンジョンはあなたが手を加えた物だったんですね、レッド」
「まぁね。それじゃ、まずは【
レッドが悠然と歩いて近づいてきます。
まるで自分こそが王であり支配者だとでも言うかのように、堂々と、見せつけるように。
レッドは私を自分の作品、魔獣の素材にすると言っていました。
このまま彼に捕まって人々を助けるどころか傷付ける存在に成り果てるようならいっそ……。
ドガアアアンッ!!!
「!?」
私が覚悟を決めたその時、部屋の外で耳を劈くような爆音と共に治療室の扉が一部の壁ごと吹き飛びました。
爆炎と共に部屋に転がり込んできたその少女は––––
「クレイちゃん!?」
おびただしい程の量の紅の魔力を身に纏ったクレイちゃんは私に近付こうとするレッドの姿を確認すると、怒りの形相ですぐさま彼に飛び掛かっていきます。
「カリンお姉さんから離れろ!【
「【
クレイちゃんの炎を纏った蹴りをレッドは【
蹴りはそのまま床に叩きつけられましたが、接触と同時に床が大破して大穴があきました。
とんでもない威力です。
「ごめん、カリンお姉さん。助けるのが遅くなって」
「ううん、ありがとうクレイちゃん。助かりました」
私を背後に庇ってレッドと相対するクレイちゃんの姿は可愛らしいだけでなく、とても雄々しく勇猛に映りました。
なんでしょう……胸の奥から熱い物が込み上げてくるような、そんな感覚を覚えます。
「あぁ、なるほど。ヒナミナの妹だからこういう事ができてもおかしくはないのか。これは計算外だったな。外に待機させていたメルバはどうしたんだい?」
「あたしがここにいるのがその答えでしょ。次はあなたも殺すよ、レッド」
「こわいこわい。一人じゃとても敵いそうもないし、ここは撤退させてもらうよ」
「待て!」
背を向けて部屋の外へ逃げ出すレッドをクレイちゃんは走って追いかけます。
……おかしい。
彼は間違いなく世界一の空間魔術の使い手です。
空間魔術の一つ、【
「クレイちゃん、気をつけ––––!?」
クレイちゃんが部屋の外に出た瞬間、横から彼女を目掛けて巨大な瓦礫が飛んできました。
彼女はそれを咄嗟に地に伏せる事でやり過ごします。
「……くっ!」
太腿に突き刺さった矢を引き抜いて【
少し迷いましたが私も部屋の外に出る事にしました。
ここには気絶しているダニエラさんと二人の男性治癒師がいます。
レッドの狙いが私である以上、彼らを巻き込む訳にはいきません。
◇
外に出るとクレイちゃんはレッド、そしてその従者であるボロボロに焼き焦げた執事服を着込んだ銀髪の老人、メルバと対峙していました。
……本当に彼らなのでしょうか?
レッドとメルバの肌色は先程までとは打って変わって青色に染まっています。
「なんであたしの炎を喰らって生きてるの?それにその肌の色……もしかしてあなた達、人間じゃないの?」
「これでも治癒師の端くれとして、己の再生力には自信がありましてな。後半の質問に対しては応える義理は––––」
「まぁまぁ、ミーバル。せっかく聖女様も出てきてくれた事だし、名乗りぐらいはしておこうじゃないか。命懸けの決闘をするなら形から入らないとね」
そう言ってメルバ……ミーバルと呼ばれた男を諭すとレッドは口の端を上げて、こちらを見下すような笑みを浮かべてこう言い放ったのです。
「僕の名はスレット・アビス。人間より優れた魔族という種であり、100年に一度この地に降臨する、今期の魔王だよ」
魔王。
アビスの姓を名乗り、人間と似た形をした魔族という種族。
大会、そしてこの場で見せた驚異的な戦闘能力、そして人外である事を示すその青色の肌は彼がおよそ100年前に存在を確認する事が叶わなかった魔王という存在である事を否が応にも認めざるを得ませんでした。
「魔王……!まさか100年近くもの間、人に紛れて生きていたなんて」
「まぁ人間としての生活もそれなりには楽しめたよ?肌の色を変える為にいちいち薬を併用しないといけないのが面倒だったけどね。……さてミーバル、次は君の番だ」
「はぁ……どうせ一人は殺し、もう一人は攫うのだからやる意味もないでしょうに。まぁよいでしょう。私の名は――」
ミーバルは肩を竦めたのち、居住まいを正して言葉を紡ぎます。
私が絶望してしまいかねないような一言を。
「ミーバル・アビス」
「え?」
アビス?
アビスの姓を名乗る者は――
「1000年ほど前に生み落とされた魔族であり、今はスレット様の従者であり、そして––––」
彼は優雅に一礼しながら宣言します。
「9期前の魔王でございます。よろしく、麗しいお嬢さん方」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミーバル・アビス(メルバ)のイメージを近況ノートの方に載せてあります。
https://kakuyomu.jp/users/niiesu/news/16818093076994381208
ここまで読んで頂きありがとうございました。
基本は週2回(曜日は第1話に書きます)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。
もし宜しければレビュー、応援コメント、作品のフォロー等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。
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