第44話 巫女さん、ガチる
△△(side:ヒナミナ)
「ついにやってまいりました決勝戦!今回は強者揃いで初戦こそ瞬殺祭りが続きましたが、その分後半からは実に濃厚な試合が盛りだくさんでしたね!!では本日のメインイベント!観客のお前ら、盛り上げていけよおぉッ!!!」
会場に凄まじい音量の歓声が響く。
並の武芸者だとこの空気だけで萎縮してしまいそうだ。
「では選手紹介!左コーナー!飛ぶ鳥落とす勢いで
ガイアは既にミスリル製の六尺棒をこちらに向けて構えている。
ボクもそれに倣い抜刀し、普段良く取る八相の構えではなく防御に適した中段の構えを取った。
武器のリーチでは大きく差を付けられてるから、慎重に行くべきだと判断する。
……それにしてもこうして大舞台に立って彼と相対する事になるなんて、冒険者を始めた頃には考えもしなかったな。
「勝敗予想は掛け金の割合からヒナミナ選手が3!ガイア選手が7!なんとここ10年で初めてガイア選手相手に3をつける者が現れました!!これはまさかの展開が期待できるやもしれません!」
「お前との試合はずっと楽しみにしていた。全力で行かせてもらおう」
「光栄だね。当然ボクも手を抜く気はないよ」
対人最強だの国内最強だのガイアを讃える言葉は枚挙にいとまがない。
だけどボクにとって彼は初めて会ったまともな冒険者であり、唯一の尊敬に値する武芸者であり、そして––––
ただの頼れる先輩にすぎない。
「それでは……試合開始イィッ!!」
「【
開始の宣言と共に八の水球がガイアを取り囲み、強烈な水流を放つ。
威力はこれまでと違って加減していない。
人間が生身でまともに受ければ穴が開く程の破壊力がある。
それぐらいしなければ倒せないとボクは判断した。
さぁ、どう対処する?
「フッ……」
ガイアは即座に六尺棒を後ろ手に回すとくるりと回転させて背後から飛んできた水流を全て防いだ。
前方から襲い来る水流は身体の位置をずらして全てミスリル製の鎧で受ける。
凄い。
魔術で対応したレッドさんと違い、自分の身体能力と技術だけで対人では必勝に近いボクの戦術をあっさりと攻略してしまったガイアに対し、ボクは驚きを隠せなかった。
彼は人外じみた馬鹿力なだけの冒険者じゃない。
その卓越した技術も含めてこそ最強と謳われているのだと否が応にも理解する。
「【
刀に蒼の魔力が宿り、水の魔術でできた刃によって刀身が伸びた。
これはガイアの持つ六尺棒にリーチで対抗する為にボクが編み出した技だ。
3mに達した刀身を踏み込みと共に上段から振り下ろす。
ガイアは下から六尺棒を跳ね上げるようにして水でできた刀身に打ち付けた。
あっさりと破壊され霧散する【
ミスリル製の六尺棒より強度が低い事は仕方ないにしても、まさか一発も保たないなんて。
「ハァッ!!」
神速の踏み込みと共に六尺棒による鋭い突きが放たれた。
それも一発だけでなく、すぐさま何度も突きと引きが繰り返され恐ろしいまでの暴力が襲いかかる。
ボクは手首を梃子の要領で動かし、刀で横から六尺棒を弾き軌道を逸らす事でやり過ごす。
正直かなり怖い。
受け流している筈なのに衝撃が凄いし、一手間違えれば冗談抜きで身体に穴が開く。
人間を相手にして恐怖の感情が沸くとは思いもしなかった。
リーチの違いもあり、攻撃を捌くので手一杯な事もあって今の状況は防戦一方だ。
……だったら手数を増やせばいい。
「【
棒術を受け流す最中にボクは水の弾をガイアに向けて放つ。
肉弾戦をやりながら集中を切らさず、魔術を放つのは容易な事じゃない。
だけど魔力操作能力に優れたボクはタメの時間すらなくそれを行える。
流石にその条件で放てるのはせいぜい【
ガイアは飛んできた【
何事もなかったかのように彼の猛攻は続く。
……当たれば大ダメージ、避けたらそれを皮切りに攻勢に回るつもりだったんだけどそれすら許してくれないらしい。
この人、ちょっとおかしいよ。
ボクは足下から水の魔術を放つ事で後ろに飛び退き、距離を取った。
レンちゃんから魔力をもらわなくても一手ぐらいならこういった加速ができる。
地面に着地した後、すぐさま次の行動が要求される。
【
それなら––––
「【
再び蒼の魔力が刀に宿る。
ボクはそれを唐竹割り、袈裟斬り、逆袈裟、何度も刀を振い続け、その度に振り抜いた数以上の無数の水の斬撃が翔んでいく。
【
これは敵を倒すのではなく、斬撃の数に物を言わせてただ攻撃を当てる事だけに特化した技だ。
一発一発の威力は大した事がない上に無駄撃ちが多い分魔力量の消費も多いから魔物相手に使う事はほぼない。
だけどガイアは(一応)人間だ。
当たればそれなりのダメージにはなる筈。
ボクは刀を幾度も振るいつつ、彼の動きを注視する。
ガイアは……その場から動いてない!?
彼はただ六尺棒を水平にしてこちらに突き出しているだけだ。
それで一体何を––––
「フンッ!」
ガイアが物凄い勢いで六尺棒を回転させた。
いや、今もなお回転させ続けている。
ボクが放った水の斬撃はガイアに届く前に六尺棒の回転によって生み出された風の盾によって霧散してしまった。
えぇ……一発一発の威力は控えめとはいえ、そんなので防げるの?
堪らず【
ボクの魔力量はレンちゃんと違って無尽蔵じゃない。
というかもう半分未満だ。
ボクの戦術が悉く破られていく。
どうすれば彼を倒せるのか分からない。
分からないけれど、こうして直接対決して一つだけ分かった事がある。
それは––––
「このおじ様、強すぎる」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
おっさんが無駄に強い百合小説。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
基本は週2回(曜日は第1話に書きます)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。
もし宜しければレビュー、応援コメント、作品のフォロー等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。
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