第37話 巫女さん、初戦に出陣する
「さぁ、やってまいりました!第42回、バレス領武闘大会!司会兼審判兼進行を務めますはこの私、歌って踊れて殴れるみんなの
「「「「「ウオオオオオオオオォッ!!!!」」」」」
武舞台の中央から魔道具によって増幅された大音量の司会者の声とそれを打ち消す程に大きな観客の声援が響き渡りました。
司会者のハルカ様はこの道では大変有名なお方で、露出度の高いフリルの装飾に飾られた桃色のドレスを着用している、紫色の瞳に同色の長い髪をした30代後半の綺麗な女性です。
稀に心無い方々から無理すんなババ……お姉様等と言われたりする事もあるそうですが、そういった誹謗中傷の数々を己の武力で黙らせ、責務を全うし大勢の観客を盛り上げる素晴らしい技量の持ち主です。
「はいはーい、観客席の皆さんは気合い充分なようですねー!それでは第1回戦、第1試合の選手紹介やっちゃうぞ!!」
自然と観客の方々の視線は向き合う闘士達、ヒナミナさんとラドリー様に集まりました。
「左コーナー!大会には初出場ながらもたった3ヶ月で
観客席に向かって小さく手を振るヒナミナさん。
その姿はいつも通り、背筋をピンと伸ばしつつも力が必要以上に入っておらず、この熱狂の真っ只中でもまったく動じていないのが窺えます。
遠目に見ても相変わらず素敵な方です。
好き。
「右コーナー!ヒナミナ選手と同じく初出場!まだ若手ながらも冒険者ギルドからの評価は高く、バレス領でも随一の槍使い!その鋭い切っ先で成るか、大物喰い!ラドリイイイイイィッ!!」
対戦相手のラドリー様は既に武器である槍を構えています。
会場の熱気に呑まれているのか、肩に力が入り、身体が少し震えている事からかなり緊張しているご様子なのが窺えます。
……明日は我が身とでも言いますか、普通は初出場でヒナミナさんのようにリラックスしてる選手の方が珍しいものです。
「勝敗予想のオッズは賭け金の割合からおよそ7:3!やはり予選を免除された選手と予選通過組では期待値に差がありますね!……とはいえどちらも初出場の選手と考えればその実力は実際の試合を見てこそ判断できるというものでしょう!」
バレス辺境伯が主催するこの武闘大会はバレス領で最も大きなイベントで観客席の代金は勿論として公認で行われる試合での勝者を予想する賭けのマージンも領の大きな財源となっています。
今回の試合ではヒナミナさんの勝ちに賭ける方々の方が多いようですね。
「ふ、ふん!掛け金なんて所詮は予想でしかない!それよりヒナミナ、何故お前は武器を構えないんだ!」
選手同士のやり取りが分かるようにとわたくし達の胸元には司会者であるハルカ様が使用している物と同じ声を増幅する魔道具が付けられており、観客席やこの控え室からも遠く離れた武舞台にいる選手達の会話がハッキリと聞こえます。
既に臨戦態勢のラドリー様と違い刀に手をかけてすらおらず、脱力しきっているヒナミナさんの様子は不可思議に映るのでしょう。
「刀は必要な時だけ抜けばいいと思ってるからね。君がそれに値する相手である事を願っているよ」
「馬鹿にするのも大概にしろ!私には刀を抜くまでもないと言うのか!?」
実際のところ、常に極限の脱力状態であるヒナミナさんは刀に手をかけてない状態からでも最速と大差ない速度での斬撃を放つ事が出来るので、構えていようがいまいがさほど違いはありません。
しかし、今回に限っては彼女が刀を抜く事はないとわたくしは予想しています。
何故なら……。
「それでは……試合開始イイイィッ!」
「【
試合開始の宣言と共に八つの水球がラドリー様の周囲を取り囲みました。
そして––––
「え?ぎゃああああああぁッ!!?」
水球から勢いよく放たれた高圧力の水流が身につけた防具を避けてラドリー様の身体を穿ちました。
言うまでもないですが本来あの技は魔物相手に使う物であり、魔物より身体の強度が低い人間が生身で受けられるような物ではありません。
開幕からノータイムで、避けられないように周りを取り囲み、正確に生身の肉体を打ち抜く。
わたくしが飛行魔術を使った戦術を完成させた時はヒナミナさんからえげつないとのお言葉を頂きましたが、彼女のやっている事の方がよっぽどだと思うのです。
「まだやる?」
「ま、参った!私の完敗だ!!」
「決まったああああああぁッ!勝者はヒナミナ選手!!予選免除の実力は本物だあああああッ!!!」
ラドリー様の降参宣言を受けて、試合は終了しました。
攻撃を受け負傷したラドリー様は担架に寝かされ迅速にカリン様を始めとする治癒師の皆さんがいる部屋へと運ばれていきます。
ヒナミナさんも魔術の出力は加減している筈ですが、それでも彼の身体からは無視できないレベルの出血があり、早々に降参したのは正しい判断であったと言えるでしょう。
……今更ですがもしこの戦術を一ヶ月程前に行われたお兄様との模擬戦で使用していたら、仮にわたくしが魔力を渡してなかったとしても1秒程で決着がついていたでしょうね。
◇◇
「お帰りなさい、ヒナミナさん。お疲れ様でした」
「お疲れ様!やっぱヒナねぇが対人戦やるとあぁなっちゃうよねぇ」
数分後、控え室に戻ってきた彼女を出迎えたわたくし達にヒナミナさんは柔らかく微笑みました。
「ありがとう二人とも。必要以上に怪我はさせないよう注意はしてるけど、威力を下げすぎても倒しきれなくなるからこの辺の調整は難しいね」
「お前と当たらなくて良かったぜ……。もし当たってたら危うく毎回1回戦で負ける奴に加えて1秒で負けた奴って汚名が付くとこだった」
「ふむ、いい物を見せてもらった」
暗に手加減したと仄めかすヒナミナさんを見て青ざめるアロン様とは対照的にガイア様は軽く感心を示しただけのご様子でした。
おそらく今ヒナミナが取った戦術に対しても既にご自身なりの回答を用意できているのでしょう。
やはり10年連続優勝者であるガイア様は別格であると感じます。
……わたくしですか?
もし試合でヒナミナさんとぶつかったら場合、全力で加減するから攻撃が当たったら降参してと彼女から言われてそれを承諾しています。
「そう言えばレッドさんはどこへ?」
警戒していたレッド様のお姿が見えない事を不審に思ったヒナミナさんが周りを見渡しながら疑問を口にされました。
「レッド様ならヒナミナさんが武舞台に上がったと同時に付き添いのメルバ様と一緒に待機室の方へ向かわれましたよ」
「ふーん」
武舞台のある場へとすぐに出られる待機室は二部屋あり、試合前の選手と付き添いの方だけが入室する事が許されています。
試合順だと第二試合はレッド様が出場される事になっているのでヒナミナさんとラドリー様が武舞台に上がった瞬間、彼らは部屋を使用する権限を得る事ができる訳ですね。
おそらく、人が少ない場所で精神統一したかったのか、より武舞台に近い場所でヒナミナさん達の試合を見たかったのかの2択でしょう。
試合が終わった後も武舞台の整地や試合の掛け金の集計等で10分ほど時間が取られます。
わたくし達は控え室に備えられた席に腰掛け、次の試合を待ちました。
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ヒナミナやレンが対人でやってる事がエグすぎて、ただ火力が高いだけのお兄様が弱く見えてくるこの頃。
作品フォロー数が150いきました、ありがとうございます。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
基本は週2回(曜日は第1話に書きます)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。
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