第35話 令嬢、本戦出場者と顔合わせする

「最強の武芸者が見たいかあああああぁッ!!!」


「「「「「オオオオオオオオオオオォォッッ!!!!!」」」」」」


 闘技場の観客を煽る司会者とそれに応える声援を尻目にわたくしはヒナミナさん、そして1名だけ許される付き添いのクレイさんと一緒に闘技者控え室に入室しました。

 時刻は8時40分、一回戦が始まる20分前です。


 わたくしとしてはもっと早く待機していた方がいいと考えていたのですが、ヒナミナさんが血の気が多い人もいるだろうし、少し遅めに行ったほうが安全だと提案した為、この時間となりました。

 控え室にはわたくしとヒナミナさんを除いた6人の闘技者とその付き添いと見られる方々がおられる事から、わたくし達が最後に入室した事になります。


「お、やっと来たか二人とも」


 そんなわたくし達に声を掛けてきたのは薄い緑色の髪をした皮鎧で身を包んだ20代後半ぐらいの青年。

【雌伏の覇者】の一員であり、本戦出場者でもあるアロン様です。

 その後ろには同じく本戦出場者であり、10年間優勝者の座を守り抜いて来たガイア様もいらっしゃいました。


「ごきげんようアロン様、ガイア様。本日はよろしくお願い致します」


「あぁ、こちらこそ宜しく頼む」


 わたくしの挨拶に言葉少なに低い声で返すガイア様。

 刈上げた茶髪に同色の瞳、鋼のように鍛え上げられた肉体を持つ彼の姿はまさに威風堂々としており、王者の風格を感じました。


「レンちゃんは俺と同じ第4試合だったよな?悪いけど今日は勝たせてもらうぜ」


「まだまだ未熟者ですが、胸をお借りしますねアロン様」


 本戦参加者は8名で日程は午前中に準決勝まで、昼休憩後に決勝、3位決定戦、エキシビジョンマッチが行われます。

 予選を免除されたヒナミナさん、ガイア様、そしてレッド様の3人は互いが初戦では当たらないように調整されており、わたくしが初戦で彼らと当たらなかったのは幸運だったと言えるでしょう。


 ……もちろんアロン様も素晴らしい武芸者である事に違いはないので、決して油断できるような相手ではありませんが。


「クリルとテトは付き添いとして連れて来なかったの?」


「あの二人なら観客席の方にいるぜ。選手控え室なんかにいたら息苦しくて肩が凝るってよ」


 ヒナミナさんの問いにアロン様が答えます。

 確かにクリル様は女性ですから血の気の多い方のいる場所には好き好んで近付きたくはないでしょうし、体格がいいとはいえ基本的に寡黙なテト様もそれは同様でしょう。


「そういうお前らはえらい可愛らしい子を連れて来たな。お嬢ちゃんが噂のヒナミナの妹か?俺はアロンだ、宜しくな!」


「あたしはクレイ。こっちこそ宜しくね、アロンお兄さん。あとガイアさんも」


「あぁ」


「アロンお兄さん……」


 クレイさんの返事に短く返したガイア様とは対照的にアロン様は何故か天井を仰ぎ見て感動に打ち震えているご様子でした。


「どうしたの、アロン。そんな気持ち悪い顔をして」


「そういうとこだぞ、ヒナミナ。お前の妹だって言うからてっきり俺の事なんて呼び捨て、もしくは君、最悪おじ様呼ばわりされるかと思いきやまさかのお兄さん呼びとか……最高すぎんだろ」


「あ、いくら君がモテないからってクレイちゃんにアタックするのはやめてね?この子はボクやレンちゃんと同じで男の人の事はそういう目で見たりしないから」


「わざわざ俺がモテないって言う必要あったか!?というかまーた俺の知り合いになる美少女に限って女の子好きなのかよ!勿体無さすぎだろ!」


「えへへ……美少女って言われちゃった♪」


「良かったですね、クレイさん」


 実際クレイさんは可愛らしい方ではあります。

 少し、いえかなり変わった方でもありますが。


 そんな風に談笑する最中、わたくし達の背中ごしに怒鳴り声がかけられました。


「おい、女ども!さっきからべちゃくちゃとうるさいぞ!ここがどこだか分かっているのか?」


 振り向くと暗い赤毛をオールバックにして眼鏡をかけた神経質そうな男性冒険者が大股で音を立てながらわたくし達に近付いてきます。

 確かあの方は……


「人がせっかく試合に向けて集中してるというのにこれでは台無しだ。遊びで来てるつもりだというなら帰ってくれないか!」


「あぁ、悪かったね。えっと君は……」


「ラドリーだ!ふん、今日の第1試合で君と対戦するというのに相手の顔すら知らないのか。……ガイア先輩のお情けの推薦で予選を免除されたようだがヒナミナ、今日こそ誰がこのバレス領で次のAランク英雄に一番近いのか、私が教えてやろう!」


 思い出しました!

 昨日の予選通過者の一人でBランク一流槍使いのラドリー様です。


 素晴らしい槍捌きをされる方でしたが、わたくしが行う飛行戦術に対応する術を持たれていないようでしたので、つい記憶から除外してしまっていました。


「おいラドリー。騒いだ俺達も悪かったが、そうイキリたつ事もねぇだろ」


 見かねたアロン様が仲裁に入ってくださいました。

 こう言った荒事が起きかねない場だと経験豊富な冒険者の方は頼りになります。

 ですがラドリー様の怒りが治まるご様子はありません。


「アロン先輩、そんなんだからあんたはパッとしないんですよ。言っときますが私はあんたのように毎年1回戦負けで終わるしょぼくれた冒険者で終わる気はありませんからね」


「別に俺だって好き好んで1回戦負けしてんじゃねぇよ。っていうかなんで俺だけ毎年初戦でガイアと当たんだよ!別のやつと当たってりゃ1回戦ぐらいなら突破できてたっつうの!」


 ラドリー様の挑発にアロン様が声を荒げて反論されました。

 彼自身が言う通り、アロン様はBランク一流でもトップクラスの優れた実力者なのですが、何故か毎年優勝常連のガイア様と初戦で当たるせいで一度も1回戦を突破された事がないのですよね。


「ふん、どうだか。大体今年はAランク英雄のガイア先輩やレッドさんを除けばあんたを含めてロクなやつがいやしない。そこの女なんてCランク一人前じゃないか。ここは舞踏会じゃなくて武闘大会なんだぞ?」


 とうとう矛先がわたくしに向きました。

 彼の評価から察するにどうやら予選が長丁場だった事もあって、一番最初に行われたわたくしの試合は見られていないようです。


 唯一のCランク一人前予選通過者であり、か弱い女子供にしか見えないわたくしは糾弾する恰好の的なのでしょう。

 流石に試合前に暴力を振るってくる事はないだろうとはいえ、自分より体格の大きい殿方に迫られるのはかなりの圧を感じます。


 睨まれて困惑するわたくしの前にずい、と一人の女の子が割り込みました。


「クレイさん!わたくしなら大丈夫ですから」


「あ?なんだDランク半人前の子供が一体私に––––」


「しっ!」



 脱力状態から繰り出された恐ろしい程に無駄がなく速いクレイさんの拳がラドリー様の顎を打ち抜いて。

 脳を揺さぶられたラドリー様は膝をつき、ゆっくりと倒れ込んでしまわれました。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 本戦です。

 前話で軽く触れましたが予選通過者は今のレン達から見るとさほど驚異になるような実力ではないです(一般的な冒険者から見れば十分強い)。


 本小説のタイトルをちょっと柔らかい感じに変更してみました。

 タイトルやら投稿日等は今後もちょこちょこ変更して読者を増やす為の最善を探っていくと思うのでよろしくお願いします。


 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 基本は週2回(曜日は第1話に書きます)更新を目標、忙しい時は週1回更新予定です。

 もし宜しければレビュー、応援コメント、作品のフォロー等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。

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