第2話:秘密の指輪
煌びやかな卒業パーティーが終わりジルリア、アンジェリーナ、フランシーヌが顔を輝かせて家族のサロンに入ってきた。
ジルリアは婚約者のライラ・ダルア侯爵令嬢を伴なって、アンジェリーナは祖父にフランシーヌは父にエスコートされて。
フィリパ譲りの金髪に王家のロイヤル・パープルの瞳のジルリアは紺色の礼装。淡い青のクラバットに琥珀のピンを留めている。婚約者のライラの色だ。
ライラはクリーム色と淡い黄色の縞を織り出した絹地に、やや淡い紫色のトレーンを引いたローブ・デコルテを纏っている。暗褐色の髪を今夜はふんわりと結い、ジルリアから贈られた紫の花飾りをつけている。淡い青の瞳は輝いている。
アンジェリーナとフランシーヌは双子だが装いはいつも違う傾向にしている。
二人共赤みがかった金髪にロイヤル・パープルの瞳。アンジェリーナの髪の方が赤みが濃い。
今夜のアンジェリーナは白の綾織の絹地に、ラベンダー色の霞のようなチュールをあしらったベルラインのドレス。
フランシーヌは光沢のある薄紅のサテン生地に、花模様を浮き出したレースを重ねたエンパイアラインのドレス。
「パーティーで着たら、思い出に交換するのよ」
二人は仕立てる時に楽しそうに言い合っていた。
「三人とも、よく見せておくれ。皆、大きくなったね」
しみじみとデーティアは三人に見入る。
「今夜のライラはどうだった?ジル。さぞ美しかっただろうね」
ジルリアが赤くなる。
「ライラはいつでも美しいです」
「おやおや、言うようになったね」
そう言ってジルリアの頬を撫でる。
その横でライラが頬を染める。
「ライラ、このヘタレ男を見捨てないでおくれ」
右手をひらひらさせてデーティアが言う。
「はい、おばあさま」
笑ってジルリアを見るライラは幸せそうだ。
ライラはジルリアの正式な婚約者なので、すでに王宮内に私室がある。今夜はこのまま王宮に泊まるのだが、アンジェリーナとフランシーヌに誘われて、三人で夜通し話すのだと言う。
「アンジー、フラニー、この指輪をあげよう」
デーティアは二人の右手の小指に指輪をはめた。
それは真ん中に丸い水晶、その両側に真珠母貝を丸く加工したものが嵌められた金の指輪で、すんなり指に馴染んだ。
「何かあったらこれがあたしとの連絡手段になるよ。どんな時でも飛んでいくからね」
説明を続ける。
「フィランジェ王国で調べられても大丈夫。これには『気にならない』魔法がかけてあるからね」
「気にならない?」
そうさ。くすくす笑うデーティア。
「ほら、ごらん」
デーティアの右手の小指にも 同じ指輪がはまっていた。
「『ある』けれど『気にならない』んだよ。指に爪があるのと同じようにごく当然に感じるのさ」
二人は自分の指の指輪を見た。
「これには三つの秘密があってね」
指輪の秘密はこうだ。
まず自分を害するものや悪意のあるものを見分ける。
人でも物でも指輪をかざして見れば透明な水晶が赤くなるのだ。
そして毒物を真珠母貝が無効化する。
二つ目はこの指輪を持つ者同士、どんなに離れていても連絡ができる。
紙に文字を書いて右手を置けば文字が消える。そうすると瞬時に宛先の者に手紙が届くのだ。
文字が消えた紙はインクの跡もペンの跡も残らない。
紙も何もない緊急事態には、魔力を注げばデーティアに思いが届く。
最後にどうしようもない窮地に陥った時に発動される効果がある。
空間を移動してデーティアの元に跳べるのだ。
「いいな。おばあさま、わたくしのはないの?」
ベアトリスが不満そうに強請る。
「どうだったかね?ああ、これか」
デーティアはさらに五つの指輪をテーブルに置いた。
「欲しいかい?」
「もちろん!」
ベアトリスは嬉しそうに言って、指輪をデーティアにはめてもらった。
「わたくしもいただきましたのよ」
シャロンが右手を出す。
「ジル、ライラ、必要だったら持ってお行き。二つ錬金したらいくつ作るのも同じだったからね。そちらの殿方もどうぞ」
右手をひらひら振る。
「これがあればアンジェリーナやフランシーヌと連絡が取れるのですか」
国王のジルリアが指輪を手に取る。
「持っている者達の間でだけね」
「私もいただきます」
フィリップが指輪を自分の右の小指にはめる。
「これで後顧の憂いが少し晴れました」
国王ジルリアも指輪をはめる。
もちろんジルリアも自分の指にはめ、ライラにの指にもはめる。
「なんだか不思議ですね。はめているのに少しも気にならない」
「そうだろうよ」
デーティアは笑う。
「エルフの伝手を使ってね、ドワーフが錬成した金を使っているのさ。そこにロナウの北の山の水晶と、南の海岸で穫れた真珠母貝を嵌めて、あたしの魔法で錬金したのがこの指輪だ」
そういうデーティアにベアトリスが不思議そうに聞く。
「おばあさまがアクセサリーをつけるなんて変な気分。いつもはその首の鎖しか見えないのに。それには何か飾りがついているの?」
「ああ、これかい?」
デーティアは細い鎖を胸元から引っ張り出した。
鎖には精緻な金の細工に平べったい楕円の水晶が嵌ったものがついていた。
国王ジルリアが驚いた顔になる。
「そうだよ。これには王家の紋章が裏彫りにされているんだ。あんたの祖父があたしに残したものさ」
笑って続ける。
「あんまりにも長い間身に着けていたから、体の一部のような気がするけれど…王家に返還しようか?」
「いいえ!大伯母上!」
国王ジルリアが止める。
「それは大伯母上がお持ちください」
デーティアはにこっとわらった。
「じゃあ、あたしが死んだら王家に戻るように仕掛けをしておくよ」
「今日は魔法がいっぱいね。いつも魔法で暮らせたら楽しいのに」
ベアトリスが浮き浮きと言う。
「日々の生活は自分の体でなんとかするのが基本だよ。お忘れかい?忘れたならまた鍛えてあげるよ」
ベアトリスの目が嬉しそうに輝いた。
「また冬に言ってもいいの!?」
一同が笑う。
「この子にはおばあさまのことならば、何も罰にならないようですわ」
ベアトリスの髪を撫でながらシャロンが笑う。
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