第3話:出藍之誉

 消えた女子生徒は、見目麗しい十五歳から十七歳の少女五人だった。貴族が三人、庶民が二人だ。

 魔力の強い女子生徒、それの多くは高位の貴族令嬢だ。王家に近いほど魔力は高く強い。

 ただ美しい貴族令嬢を狙った誘拐事件ではなく、庶民でも魔力の強い女性生徒が消えていた。

 その全員が寮の自室から忽然と姿を消したのだ。

 王立学園の寮には強い守りの術がかけられている。にも関わらず寮の自室から消えたのだ。


「内部の人間の仕業か、内部に協力者がいることは明らかです」


 シルアはデーティアを連れて消えた女子生徒の部屋を見て回った。

 どの部屋にもあからさまに魔法の痕跡が残っており、その魔力の素はデーティアには初めてのものだった。


「これが闇の魔法の素の特徴です」

 シルアが教える。


「魔法には同じものでも術者の特徴が素に現れます。わたくし達はこの素を解きほぐし、術者の特徴を洗い出すが第一の作業です」


 わたくし達?


 デーティアは面食らった。


「シリア先生、それはあたしもですか?」

「デーティア」

 シルアは真剣な表情でデーティアに言った。


「実はあなたはすでにわたくしの力を遥かに超えているのです」

 デーティアは驚いて目を見開いた。

「あなたに必要なことは経験と実技しかない段階に入っています。闇の魔法は滅多に触れることがないのです。わたくしが導きますから、どうか力を貸してください」

 腰を折ってシルアは助力を乞うた。


 新学期の始まったばかりの王立学園は閉鎖された。女子寮に残っているのはデーティアのように帰ることが困難な生徒だけだ。皆、一部屋に数人ずつ詰めている。念のためシルアがデーティアの部屋に同居して調査にあたることになった。


「この部屋は」

 シルアが懐かしそうに部屋を見渡す。

「わたくしが学生時代に使っていた部屋なのですよ」

 どうやらこの部屋は、シルアの配慮でデーティアに割り当てられたようだ。


 さて、消えた女子生徒は五人。

 ルーディン伯爵令嬢エリアーヌ、ガネア伯爵令嬢クラリッサ、ソルシア子爵令嬢ミランダ、庶民はアンデラ商会のミリアム・アンデラ、奨学生のヒルダ・ホーンベリー。

 共通していることは魔力が強く、眉目秀麗で学業に真摯に取り組む優等生だ。もうひとつ、全員が一人部屋を使っていて、夜のうちに消えていた。

 残ったのは「探してみろ」と言わんばかりの禍々しい魔力の痕跡だ。


 二人は注意深く魔力の素を解きほぐしていくいった。


 デーティアは最初の作業でコツを飲み込み、術者の特徴をすぐに掴んだ。

 掴んだが、これが誰の術なのか、それを特定することは難航した。

 なぜなら、シルアの知る魔導士の誰にも当たらなかったからだ。


「おそらくこれは魔導士ではないでしょう。魔導士になれる力のある魔力持ちです」

 シルアは美しい眉間に皺を寄せて言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る