第2話:学びて時に之を習う
何もかもが大きすぎた。
学園側はデーティアが特殊な境遇であったことを慮って、寮では彼女に一人部屋をあてがった。
部屋そのものはさほど大きくないが、テーブルも椅子もベッドも洗面台も、彼女には大きすぎた。
全ての物を使うために、足台が必要だ。
この寮は十二歳から十八歳の人間用の部屋と家具しかないからだ。
講義を受ける教室もデーティアには大きく、一番前の席でも椅子にクッションを置いて上に座らなければ机に届かない。
教材とクッションを抱えた小さな子供デーティアは、あっという間に話の種になった。中には面と向かって嘲笑う者もいた。
遠巻きに見る者も、ヒソヒソと囁き合う者も、デーティアは見えないかのように振舞った。
わざわざ嘲笑ったり揶揄ったりしに来た者には、デーティアは「フン」と小さく鼻を鳴らして、可愛らしい唇をこの上なく優雅に微笑みの形にして見せた。そして沈黙を通した。
皆、それにたじろぎ、ほどなくデーティアに絡むものはいなくなった。同時にデーティアの周りに来る者もいない。
こんな雰囲気はエルフの村でも同じようなものだった。誰も積極的に人間の血の混じった自分に構うものはいなかった。特に同年代の子供は。
魔力が強いことを知った呪術師と医術師が、みっちりと知識と実技を仕込んでいたところも今の状況と似ている。
デーティアにとって孤独と修業は生活そのものだった。
もちろん、エルフの村では仲間外れにすることはなく、生活の細々とした全てを家族、祖父母や伯父伯母や従兄妹達と行っていた。
孤独な生活だが、デーティアとシルアには願ってもいない環境だ。
目立つデーティアが頻繁にシルアの下での魔法の個人授業を受けていることが露見することはなかった。
ちょうどいい。
デーティアは思った。
シルアの個人授業は厳しかった。
あたかも王族のような行儀作法を叩き込まれ、魔法の授業も多く高くを求められた。
しかしシルアは魔導士になることを勧めはしなかった。
「魔導士は不自由なものよ。魔導局に常に監視されて自由に移動もできない。全ての行動に許可が要るし言動も注意しなければ身の破滅と紙一重なのよ」
デーティアは束の間の休憩にシルアが語る言葉に耳を傾ける。
「魔導士は宮廷に仕えることになれば、魔法で不妊になる。普通の家庭は諦めなくてはならないわ」
デーティアは僅かに小首を傾げた。よくわからない言葉に対する反応だ。
「不妊って言うのはね」
皮肉な笑いを浮かべてシルアは言う。
「子供が産めない、作れないってことよ。作る気にもならないの」
そして僅かにまばたきしてから続けた。
「確か魔女や魔術師も似たようなことがあったはずよ。不妊ではなく、体の一部の機能を捧げて使えなくするのだったかしら?」
この言葉はこの時のデーティアには知識の一部として残ったが、後にこれを利用することになる。
デーティアは二年で中等部を終え、十二歳の秋に高等部に進んだ。体はほとんど成長していなかったが。
相変わらず授業の講義や実技の合間に、シルアの個人授業があった。しかし高等教育においてもほぼそれを修めているデーティアは、とる講義は少なかったためシルアの身が空いている時間は彼女の個人授業に専念できた。
そして学園が許す副業にも就くことができた。
教師たちの資料の製作の手伝い、写本、細々とした使い走りなど。
デーティアは少しずつ小金を貯め始めた。
この頃にはデーティアは自分の将来はエルフの村の中にないと悟り決めていたし、同じように人間の中での"普通"の生活も諦めていた。
その冬、高等部に事件が持ち上がった。
行方不明事件だ。
高い魔力を持つ女子生徒が次々と行方不明になり、いくつかの場所に高度な魔法の痕跡があった。それは禁術と呼ばれるものだった。
闇の魔法だ。
魔力が抜きんでているシルアが事件の調査の代表に選ばれた。
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