白飛びするほど輝く君を、切り取りたい

短夜

第1話

朝、水平線が輝く。

揺れる水面が足を濡らす。

永遠と続く砂浜は静寂に包まれる。

朝日が照らす砂色の浜、

――カシャ――

シャッターが静寂を破る。

周りを見渡すが何もない、誰もいない。

ただ砂色が辺り一面に広がる。

波が砂を浚い、砂色は濡れ色に。

潮風が身を包む。


ここは……


――ピピピ――

よくわからない夢を見た。

夢の世界に誘われるとあの浜辺にいた。

外の空気を吸いたくて窓を開ける。

潮の匂いが鼻をつく。

「はぁ……」

もやもやを晴らそうと洗面所へ向かった。

「あ、お兄ちゃん起きたんだ。」

「あぁ、残念ながら。」

「たまには早起きも良いじゃない?健康、健康。」

「ゲームのために早起きするお前に言われてもな。」

「いやぁ、それほどでも。」

「終わったならどいてくれ。」

「はいはい。」

「はいは一回。」

「はいはいはい。」

「赤ちゃんか。」

そんな馬鹿な会話しているうちに、夢のもやもやは頭から消えていた。

キッチンには相変わらず豪勢な和食が並んでいた。

「朝からこんなに食べられないけど…」

「いいよ、昼にいただきます。お兄ちゃんが残すだけ私の昼も豪華に。なんちゃって。」

「お父さんは?」

「先に食べて出てったよ。忙しいんだって最近。」

「へぇ。」

他愛もない会話しているうちに皿の上は空っぽになっていた。なんだかんだ言って完食だ。妹お手製の弁当をカバンに入れて玄関を出る。外は潮の匂いが鼻をつく。海が見える小さな町。ここでは高校生が楽しめる場所などそうありはしない。そんな町を、海を横目に自転車で駆け抜ける。電車で一駅。それでもこの景色を見たくて自転車を走らせる。ふと視界の端に人影が映った。それ自体はおかしなことじゃない。時々、散歩をする人もいるから。ただ、気になったのは服装だった。制服を着ている。それもたぶんこの地域の学校じゃない。

「何してるんだろ。」

彼女は何か覗き込んでいた。

「カメラ?」

遠くてはっきりは見えないがたぶんそうだろう。カメラ持っているなら校外学習なのだろうか。ふと人影はこちらを振り返った。

息を呑む。

刹那、世界が止まったように見えた。

まるで一枚の絵のようで。

勿論、世界が止まったわけでも、絵になったわけでもない。ただそれぐらい、輝く海を背にする彼女は絵になっていた。

「あの、何か……」

「あ、すみません。」

つい見入っていた。

「こんなところに校外学習なんて珍しいですね。」

「え?」

「平日にカメラと制服だったから、違いました?」

「あ、その……」

「あぁ、それとも部活でしたか。」

「え、違――」

彼女が口を開くのと同時、スマホが震える。じゅんからだ。ってやばい。遅刻だ。

「あぁ、行かないと。邪魔してすみません。」

「え、うん……」

何か言いたそうだったけど、そのときは遅刻してただただ焦っていた。

急いで自転車を進め、急いで靴を下駄箱へ、急いで階段を教室へ。

クラスで一人目の遅刻か、最悪。

「すみません、遅れました。」

「おぉ、遅刻おめでとう、湊一そういち。」

「すみません。」

「いいから早く席につけ。」

「はい。」

先生に促され席につく。

みなとが遅刻とか珍しいー。」

「うるさい、たまたまだよ。」

「わかったわかった、悪かったよ。」

純はそう言うと前を向いた。

その後はなんら変わりのない時間が流れた。

いつも通りの授業、いつも通りの昼休み。家に帰るとき朝と同じ道を通ったが、彼女はもういなかった。また会えるかな。柄にもなくそんなことを思う自分がいる。家に帰ったあとは相変わらず量の多い数学の課題を進めていた。疲れたのか集中力が切れた頃にはもう時計は七時半を指していた。カメラの埃は最近の忙しさを実感させる。

「腹空いたな。」

腹の虫が騒いでいる。リビングに下りるが。

「あれ、ないじゃん。」

妹を呼びに部屋へ行く。ノックをするが返事はない。

「入るぞ、って……」

案の定部屋はモニターの光に照らされていた。

「目悪くなるぞ。電気つけろ。」

「え、あぁ、ノックしてよ。」

「した。ヘッドホンで聞こえなかったんだろ。」

「そうだね、で何かよう?私は今見ての通りなんだけども。」

「……夕食。」

「え!もうそんな時間!?」

「もう七時半過ぎです…」

「教えてよぉ!」

なぜか文句を口にして、慌てて部屋を出ていく妹。その背中を見送りながら自分でも料理できればな、なんて思ってしまう。まぁ、残念なことにスクランブルエッグが限界だけど。健康のためにも妹に料理を任せて正解だ。

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