第4話 明かされた真実

お店があったという場所には3階建てのベージュ色の小さなマンションが建てられていた。入り口の脇には駐車スペースが4台ほどある。この辺りは観光地ではないからか、そんなに開拓が進んでいるようには見えない。新しいマンションや個人宅も建てられているようだが、昔からの家もまだ随分と残っている。

 父親は息子の様子を窺った。建物をじっと見つめているが、隼人君が現れる気配はない。


「隼人君、何か思い出す事はあるかい?」


「う~ん」


 首を傾げた。もちろんこの場所で合っているとは限らない。


「次に行ってみようか…」


 もう一つ教えてもらった食事処へ歩いて向かうことにした。一度、幹線道路に出るので交通量も多い。そこは今、コインパーキングになっていた。幹線道路から少し外れ、住宅のある方へ歩いてみることにした。瓢箪の形をした小さな公園があった。珍しい形をした公園で、公園の名前もそのまま「ひょうたんこうえん」と古めかしく書かれている。小さい子供がブランコに乗って遊んでいる。それをお母さんらしき人が優しい表情で見ている。


「パパとよく遊んだ公園だ~」


 突然、隼人君が叫んだ。


「えっ?」


「うん。間違いないよ」


「そうか、ここで当ってるか…ここから家へ帰れるかい?」


「うん、わかる」


 隼人君の記憶が戻りつつあるようだ。と同時に、昨夜妻との会話を思い出した。


(家がわかって、そこにご両親が住んでいたらどうするか…)


 その答えはまだ出ていなかった。


 隼人君はそそくさと歩き始めた。とりあえず、ついていくしかなさそうだ。


 小道を2つほど曲がり、見通しの悪い四つ角にくると隼人君の足が止まった。


「あそこが僕の家なんだけど…」


 そう指さしたのは月極駐車場だった。


 父親はその駐車場を見ながら心なしか安堵した。しかしその表情は隼人君に悟られては絶対にいけない。


「少し、近所の方に聞いてみようか…」


 隼人君にそう言った。


 黒木準一・良子ご夫妻のことは、ご近所さんのご婦人からすぐにわかった。もう、80歳近いであろう。


 これで隼人君の話はすべてが本当だった。前世の記憶で間違いない。後はなぜ、交通事故に遭ってしまったのかということだ。


 ご婦人の話によると、こういうことらしい。

ご両親は隼人君が亡くなって5~6年して引っ越したそうだ。引っ越し先はご近所さんでもわからないそうだ。お子さんは隼人君一人だけ。


 隼人君の事故のことも訊いてみたいが、本人がいる前では訊きづらい…


「パパ、あの子犬かわいいね。ちょっと見て来てもいい?」


 そう言うと陽介は子犬を連れた若い女性の方へちょこちょこと走って行った。

 陽介は勘のいい子だ。何かを察したのかもしれない。


「亡くなったお子さんがいたと思うのですが…」


「ええ、よくご存じて…黒木さんとはお知り合いですか?…」


「まぁ、昔に少しお世話になったことがありまして…」


「そうでしたか…お誕生日の日にあんな事故に遭ったでしょう…お辛かったんでしょうね…奥さんは『隼人を買い物になんかに出さなければ良かった…』とずっと自分を責めていました。ご主人はいつもそれを慰めていましてね。だからここで暮らすのが辛かったのかもしれませんね…」


「事故の原因というのは…」


「詳しくはわかりませんが、なんでも隼人君は少しフラフラしながら自転車を漕いでいたようです。それで突然車道の方へ倒れてきて車が避けきれず事故に遭ったそうです」


(まだ6歳の子供だ。自転車の運転が不慣れなのは仕方ない…なんとも悲しい事故か…)


「いろいろと教えて頂き、ありがとうございました」


 父親は頭を下げて別れた。ご婦人は自宅の中へ入って行った。


 いいタイミングで陽介が戻ってきた。


「隼人君に変わるね…」


「僕、全部思い出したんだ。なんで事故に遭ったのか…」


 隼人君は父親の顔をじっと見つめた。それは怖いくらいの眼差しだ。


「あの日、僕の誕生日でマイクマで誕生日のお祝いのケーキをママが頼んでくれていたんだ。だから僕は嬉しくなって、ママにお願いして自分で取りにいくことにしたんだ。家を出て小さい四つ角に来ると、4人の高校生のお兄ちゃん達がふざけて飛び出して来て、僕の自転車とぶつかって転んだんだ。ぶつかったお兄ちゃんは『坊や、ごめんね』って誰かの頭を叩き笑いながら、そのまま行ってしまったんだ。たぶんバスに乗ったんだと思う…


 あの時、僕はハンドルに頭をぶつけて痛かった。足も腕も痛かった。痛くて帰ろうかとも思ったけど、せっかくママが頼んでくれたケーキだから、頑張って一生懸命にフラフラしながらでも運転したんだ。でも急に転んじゃった。もしあの時、お兄ちゃんたちがあんなふざけて飛び出して来なけれが、ぶつからなかったかもしれないし、お兄ちゃんがちゃんと僕を起こして診てくれたら、僕は事故に遭わなかったかもしれない…死なないで済んだかもしれない…僕…悔しいよ…


 そしてその時のお兄ちゃんって…おじさんだよね、僕、今はっきり思い出した…そのお兄さんには両目の下にホクロが3つがあった…おじさんと全く同じ場所に…」


 そう言って父親を指さしたのは、陽介の表情とは全く違う、まぎれもなく隼人君だった。


 父親は驚愕と戦慄を覚えた。



 明かされた真実 完  エピローグへ続く

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