魔法少女姉妹

@sirokumacapy445

姉妹


 あの子の封印解く。


 そんなことを言われた。


 


 私の名前はサラ。そして、私とあの子は、魔法少女だ。大層な名前がついているが、実際はこの国、ギテレ帝国の兵士のようなことをしている。


 魔法少女とは、役職名だ。魔法の才能が突出している女の子が任命される。幼いうちに才能が開花することは少なく、魔法少女は現在、私とあの子しかいない。


 


 あの子が、サナが、私の妹が封印されている理由。それは、あの子が狂っているからだ。


 まだ魔法の才能があるとわかってから少しの頃、私とあの子の魔法の力が暴走し、人を、両親を殺してしまった。


 私は泣いた。謝った。自分の手で初めて人を殺してしまった。しかも、愛する両親を。


 


 でも、あの子は違った。もちろん、もう両親と会えないことを悲しんではいた。


 しかし、その後しばらく酷く憔悴していた私に対しあの子は笑っていた。


 人を殺す愉しみを、覚えてしまったのだった。


 それから、あの子は暴れた。自分が愉しむためだけに。


 たくさんの人があの子に殺された。それを見かねて軍部と私はなんとかあの子を封印した。あの子を殺す力は、持っていなかった。


 それから帝国は領土拡大のために戦争を始めた。あの子は強大な力を持っていたため、戦争の時だけいいように使われていた。


 私は所謂あの子のお目付け役だ。あの子が変なことをしないように見守っている…と言うと聞こえが良いが、実際はただの監視。戦争が終わったらまた封印するだけの仕事。そこに姉妹のような関係は少しも無い。


 そして、恐らく他国との戦争はこれが最後だ。すでにこの大陸の他の国はすべて帝国が吸収してしまったから。


 


「サナ、おはよう。」


 何回目か分からない自分で封印したものを解く作業。


「うーん、まだ眠いよう。お姉ちゃん」


「またサナの出番だよ。」


「ほんと!?やった!」


 サナを封印している間はサナの時間は全く動いていない。だから、サナは毎日戦争(本人にとっては遊び)していると思っているのだ。


「あれ、お姉ちゃんまた背伸びだ?」


「そんなことないよ。」


 だから、サナの思う世界と現実世界には少し差異がある。なんとか誤魔化さないと、何をし始めるのか分からない。気を付けなければ。


「さあ、行こっか。」


 


 戦争はいつも一瞬で終わる。あの子が魔法を数発撃つだけで相手の前線は崩壊する。それほどあの子の力は強大だ。


 今回も、その例に漏れず、瞬く間に終わるだろう。


「みんな、あそびましょ!」


 そう言って、サナは魔法を数発放つ。本人は、あれでも大分出力を抑えているが、生身の人間にとっては天災級の攻撃である。


「ふふっ、やっぱり楽しい!」


 


「あれ、もうおしまいなの?」


 大きな白い旗が立つ。それが相手国が降参していることを意味することが分からないくらい、サナは幼くはない。


「なんだ、つまらないの。じゃあお姉ちゃん、遊びましょ!」


 相手国の兵士を殺す程度では満足出来ないサナは、終わった後、いつも私に勝負を挑む。自分で言うのもなんだが、私はヒトの中では強いほうだ。しかし、サナ程の力は無い。


「手加減、よろしくね?」


「もちろん!お姉ちゃんが壊れたら嫌だもん!」


 


「それじゃあいくよー♪せーの!」


 そんな掛け声と共に、魔法が放たれる。


「くっ…お返しだよ!」


 なんとか避けつつ、反撃の魔法を撃つ。出し惜しみはしない。全力だ。


「よっ、ほっ」


 軽くいなされるが、まだまだ。魔法を連射する。


 私の得意な魔法は連射だ。短い間に大量の魔法を撃てる。その分、威力は高くない。


 逆に、サナは火力特化だ。一つ一つの魔法の威力がとても高い。そのため、サナの魔法一つ防ぐだけでも精一杯だ。


「やっぱり、お姉ちゃんはすごいよ!これだけやって壊れない人なんていつもいないもん!明日はいるのかな?」


 その言葉を聞きつつ、私は複雑な気持ちになる。戦争はもう起こらないだろう。それは良いことだ。しかし、戦争の時しか封印が解かれないサナはどうなるのか。永遠に眠ったままなのではないか。


 …嫌だ。


 嫌だ。まだ、サナといたい。もっと一緒に痛い。もっとこの子の声をきいていたい。もっとこの子の動いているすがたを見ていたい。もっとこの子と生きていたい。ずっと、一緒にいたい。


「…逃げよう。」


「?お姉ちゃん、どうしたの?」


「…逃げよう、サナ。」


「?どういうこと?」


「サナ、よく聞いて。戦争はたぶん、今日で終わり。あなたの明日は、たぶん戦争じゃない。そして、サナはこれからどうなるか分からない。」


「…私、この国に必要とされてないの?」


「…。」


 否定はできない。たぶん、一歩間違ったら1都市を消滅させれるような危険分子は残しておきたくない、というのが、帝国の意見だろう。


「このままだと、私、もうお姉ちゃんと遊べないの?」


「…た、ぶん。」


「つまり、この国は私達にとって邪魔ってこと?」


「…っ!」


「私、邪魔なやつは壊していい、って教わったよ!」


 サナの異常な価値観。そうなるように誘導した帝国。それが今、仇になろうとしている。


「お姉ちゃん、全部壊してやろう!私とお姉ちゃんなら出来るよ!」


「サナ…出来るかな、私達に。」


 そうだ。私達を邪魔するものは、全て壊してしまえばいい。


「ありがとう、サナ。気持ちがすっきりしたよ。…とりあえず、帰ろっか。」


「うん!」


 


「さっさとそいつを封印しろ、魔法少女。」


 帝国に帰るなり、上官はそう言ってきた。


「嫌です。」


「は?」


「嫌です。」


「何を言っているんだ貴様は。」


「だから、サナを封印したくないと言っているんです。」


「身をわきまえろ。これは命令だ。嫌とかそういう貴様の感情は関係ない。やれ。」


「封印したあとはどうするんですか。」


「処分する。もう必要ないからな。その際に暴れられては面倒だ。だから先ず封印する。」


「私に、妹を殺すことに加担しろと言ってるんですか。」


「あぁ、そうだ。それがこの帝国のためだ。」


「…っ!」


 私は、怒りの衝動に任せて魔法を至近距離で撃つ。気持ち悪い。何が帝国のためだ。そんなのサナに比べたらそこらの蟻と同じだ。これで生身の人間なら簡単に殺れるはず…


「我々が貴様らの対策を何もしていないとでも思ったか?」


「っ!?」


「これは帝国が開発した対魔法用防弾チョッキだ。貴様の程度の火力なら簡単に防げる。まあ、そっちの妹のは流石に無理だがな。」


 そう、私の魔法は速射性がある代わりに威力はぼちぼち。それでも一般人と比べるとだいぶ高いのだが、サナと比べるとその差は一目瞭然。でも、それなら。


「サナ!」


「させるか。」


 トンッ。そんな軽い音が聞こえたと同時に胸に衝撃があった。見てみると、ナイフがつき刺さっている。


「あ…」


「もちろん、貴様らの弱点も把握している。貴様らが弱いのは単純な物理攻撃だ。戦闘中は結界を張っているだろうが、結界魔法は消耗も激しい。普通は一人で発動するものではないからな。こういう時は結界は張っていないだろう?」


 そんな言葉を聞きつつ、私は倒れる。後ろでも音がしたから、サナもきっとナイフを食らっているのだろう。私達は魔法の才能があるだけで、身体自体は普通の人と同じだ。


「回復魔法でもあったらその弱点はなくなっていたのだがな。生憎、そんな魔法は存在しない。まあ、帝国が研究中だが。」


「お、姉ちゃん…魔法が…出せない…よ…」


「嘘…!?」


 確かに、サナの言う通り、魔法が出せない。何故?

「そのナイフに、魔法の元、魔力の動きを阻害する毒を塗っておいた。貴様らは危険だ。普段からこういうことをしておかなければ、俺の身が危ない。姉の方はよく言うことを聞くから、残そうと思っていたが、抵抗するなら処分しろと言われている。」


「そんな…」


 油断していた。考えが甘かった。戦争を私達に全て任せていたから、戦闘力は高くないのだと思っていた。


「サナ…ごめんね…」


 悔しい。このまま死ぬのが悔しい。この国に何も出来なかったのが悔しい。せめての爪痕も遺せなかったのが悔しい。私の甘い考えでサナを巻込んでしまったのが悔しい。


「お姉ちゃん…ずっと一緒だよ…。」


 サナが弱々しく私の手を握ってくる。それが悲しくて、悔しくて、嬉しくて、たくさんの感情が混ざり合って涙が出てくる。


「うん…」


 その手を握り返す。まだあったかい。でも、どんどんそれが失われていく。たぶん、私の手も。


「俺にそんなことに付き合う暇はない。」


 その瞬間私の意識は無くなった。


 


 その後、報道により、魔法少女は戦死したと報じられた。


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