ドイツを旅して
飛鳥 竜二
第1話 旅立ち
トラベル小説
冬に妻を亡くした。以前から高血圧の症状があり薬を処方されていたが、忙しさにかまけて飲むことを忘れることが多々あった。脳溢血。63才だった。
先日、100か日法要と納骨を終えて、一連の葬儀が終わった。そこで、1週間前にネットでエアーチケットをとった。マイレージがたまっていたので、閑散期のためヨーロッパ便がとれた。ミュンヘン行きだ。5年前の退職時に妻といっしょに旅したところを回ってみようと思った。
成田までクルマでいき、大手のビジネスホテルに泊まった。パーキングサービスがあり、1週間無料でクルマを停めることができる。それに、このホテルから見える景色を妻が好きだった。滑走路や駐機場が見え、妻は窓に顔をくっつけて、飛行機の写真を撮り続けていた。夕陽をバックに離陸する飛行機を撮れた時には喜んでいた。
翌朝8時にホテルを出て、空港までシャトルバスでいく。閑散期なのでバスはがら空きだ。外国人が多いといっぱいになることもあるようだが、コロナが解禁になったばかりなので、まだ旅行者は少ない。
航空会社でのチェックインはスムーズだった。スーツケースはセルフでドロップインだ。カウンターでパスポートを提示し、チケットを受け取る。国内線はスマホだけで通過できるが、さすがに国際線はそうはいかない。でも、荷物を預ける手間がない分、スムーズになった。旅行保険の手続きと予約していた海外用のレンタルスマホの受け取りを行ったあと、時間に余裕がでたので、本屋に行った。機内で読む本がないかをさがした。星新一のショートSFを見つけたので購入した。長い文章より、こういう短い文章の方が気楽でいい。それと数独の本があったのでそれも購入した。頭を使うと眠りやすくなる。もっとも機内で寝ると時差ボケが厳しくなるので、できるかぎり起きていた方がいい。
出発1時間前に出国審査。手荷物検査も出国審査もスムーズだ。パスポートを機械にかざし、顔写真を登録するだけで通過できる。以前のような出国審査で質問されることはなくなった。搭乗口に行くと、それなりの人はいたが満員というわけではないようだ。案の定、搭乗すると空席が半数ほどあり、隣に座っていた男性はCAさんに話をして、隣が空いている席へ移動していった。おかげで私も2席分使うことができるようになった。横になるつもりはないが、座席に余裕があるのはうれしい。座席は最後尾の右側。通常は3席なのだが、最後尾なので2席しかない。窓までの距離が少しあり、写真を撮るには今ひとつだが、離着陸時に写真を撮ることはもうしなくなった。それよりはトイレに近いし、後尾のデッキにいるCAさんと話ができることもある。
機体は787。国内線で使われている737よりは、シート幅が広い。エコノミーでもさほど窮屈には感じない。それに最後尾の席なので、気兼ねなくリクライニングできる。モニター画面も大きく、プログラムは充実している。数独も入っており、本を買った意味がなかった。
機内食が出てきた。ワンプレートだが、充実メニューだ。さすがに日系の航空会社は違う。日本人の好みをよく知っている。以前に、K国乗り換えでヨーロッパに行ったことがあるが、機内食は食べられるものではなかった。
食事が終わるとシネマタイムだ。邦画の最新作を見ることができた。阿部サダオの演技は秀逸だ。その後、数独をしたりして時間をつぶす。機内が暗くなり、オヤスミタイムだが、ここで寝てしまうと時差ボケになってしまう。なんとかがまん。後尾デッキにいって、ドリンクと軽食をもらった。その際に、そこにいたCAさんと話をすることができた。
「この時間はCAさんもオヤスミタイムじゃないんですか?」
「えぇ、交代で休んでいます。今は私が当番でお客さまの呼び出しに対応しています」
「立ち仕事ですから大変ですよね」
「正直、フライトが終わると足にきていますよ。でもこれが仕事ですし、今では慣れました」
「CAさんの喜びって何ですか?」
「あら、シビアな質問ですわね。ふつうは、お客さんに感謝されるのが一番ですね。と言っています。でも、正直言って、最近はトラブルなくフライトを終えて、ホテルで乾杯というのが一番ですわね」
「CAさんはいける口ですね」
「ミュンヘン便でビールが飲めなかったら、人生の楽しみの半分は損していますわよ」
「たしかに私もそう思います」
そこで、CAさんを呼び出すランプが点灯した。
「すみません。呼び出しがありました。どうぞごゆっくり」
と言って、そのCAさんは客席に向かっていった。
到着2時間前に機内のライトが点いて、CAさんがあわただしく動き出した。2度目の機内食の時間だ。軽食中心のメニューで、夜食にはちょうどいい。朝食の感覚で食べている人もいるが、日本時間では夜の11時。ヨーロッパ時間では午後4時。機内で寝るとこの後がつらい。
1時間前から徐々に着陸態勢に入った。高度が下がっていく。雲の中を過ぎると、陸地が見え始めた。農村地帯が見える。遠くには雪をまとったアルプスが見える。そして急に滑走路が見えた。着陸だ。
午後6時ミュンヘン空港着。入国審査などで1時間かかり、空港横のHホテルにチェックインした。日本時間では夜中の2時だ。さすがに眠い。もう何もすることもなく、ベッドインした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます