こっち来んな、都市伝説!

草葉野 社畜

プロローグ



 地獄を思わせる、漆黒の闇の中。

 そこに生者はおらず、また、死者もいない。



 地獄でも極楽でも、現世でもない。

 ここは半端者が集まる場所、「才太郎畑さいたらばたけ」。



 何もかもを飲み込むような静まり返った空間。



 そんな場所に、

「あああああああああああ!!!!!??!!!」

 という腹の底からの叫び声と、荒々しい足音が響いた。


 暗闇の中、死に物狂いで走る男性。彼の背後から1mほど離れたところに、〈紫色の鏡〉が浮かんでいた。〈紫色の鏡〉は、鏡面から怪しげな光を発しながら、男性との距離をじわじわと詰めてくる。


「ボケェェェ!!あれ「ムラサキカガミ」やん!!?捕まったらアウト死が確定やろ?!!!いややぁあああ!!!!!なんで俺がこないな目に遭うねええぇん!!!!」

 大絶叫しながらも男性の足は止まることはない。


 ――「ムラサキカガミ」。

 都市伝説の1種で、「紫の鏡」「紫鏡しきょう」「パープルミラー」、と地方によって呼び方は異なる。内容としては、この言葉を20歳まで覚えていると、「不幸になる」「結婚できない」、果ては「死んでしまう」といった都市伝説だ。


 この言葉を知ってしまった時の対応方法としては、

 ①そもそも「ムラサキカガミ」に類する言葉を忘れる

 ②対抗できる別の言葉を一緒に覚えておく

 等がある。



「ああああなんやっけムラサキカガミの解除ワード!!~~~っだぁぁー!!アカン無理や思い出せへん!!死ぬ!!!!!」

 平常であれば、落ち着いて思い出すなり、ググるなりできるのだが、生憎今は異常事態の真っ只中。走り続けることで精一杯の彼は、やけくそになって叫ぶ。




 ――――こっち来んな!!!都市伝説!!!!!

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