その日の夜は雨になった。

 予報では、台風が近づいているらしく、時々、最近の天気は、こうしてあっという間の土砂降りとなった。

 今週末にはもう本土を抜けるという予報なので、海の日は、大丈夫だよ、と友達が言っていたことを薺は思い出していた。

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」

 薺は近くにあったコンビニでビニールの傘を急遽、購入した。それから、真っ暗になってしまった宵闇の中を、薺は傘をさして、雨の中、一人で歩いて家に向かって歩き始めた。 

 ……突然、雨にふられちゃったけど、とりあえず傘を買えてよかった。

 ほっと安心しながら、雨の中を薺は歩いていた。

 雨は、だんだんとその勢いを増していた。

 周囲はとても静かだった。

 明かりもなく、人も誰もいなかった。

 ざーっという雨の降る音が聞こえる。

 その音に薺はじっと耳をすませていた。

 そうして、夏の夜の雨の中を薺が一人で歩いているときだった。

 薺は急に、自分の背後の『暗闇の中』に、なにかの気配を感じ取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る